大審問官スターリン (岩波現代文庫 文芸 311)
大審問官スターリン (岩波現代文庫 文芸 311) / 感想・レビュー
HANA
スターリンが権力を握ってからその死まで、ソ連全土を襲った粛清の嵐。元来政治文脈で語られる事の多かった大粛清だが、本書は文芸の観点から読み解いた一冊。著者が語るようにコラージュの手法が採られているが、その分全体的な通史より各作家、作曲家を襲った理不尽がより感じられるようになっている。この巨大な政治機構という天災みたいなものを前にして、作家は翻弄されるばかり。押しらむは登場する作家になじみが薄く、知っているのがブルガーノフやゴーゴリ等一部だけなので、十全に読めたとは言い難い事。巻末の人物評はありがたかった。
2020/01/13
Nobuko Hashimoto
絶対的な存在であったスターリンと芸術家との関係を、先行研究に依拠して文学的に描き出した著作。著者本人が言うように厳密な実証に基づく歴史書ではなく、スターリンが何に怯え、何に執着したのか、その人物像を著者なりに構築し、再現しようとしたもの。そのため幻想っぽいところや推測や想像の部分も多い。没頭しすぎて悦に入っている感じもアリ。全体の構成は時系列に沿っているが、人物ごとに項目が立てられているので、話が若干前後したり重複したりで、時々わかりづらい。とはいえ、細部の事実は大変面白かった。処刑しまくりやなあ…😢
2021/01/05
ぱなま(さなぎ)
スターリン時代の検閲史が時系列に著されているが、筆者は歴史書としてではなく文学的手法で独裁者の内面に迫ろうとしたという。芸術の価値より政治的ふるまいの手腕で生死を分かたれ、真正面から受容されることのなかったソビエト時代の芸術。年老いるごとに闇を濃くする独裁者の猜疑心と妄想の根源について考えたとき、権力者とはどうあるべきかという問いが表裏となって思い浮かぶ。表現ではなく、いかに理想化された未来を描けるかに価値を置いた社会主義リアリズムの解説も興味深い。本質的に誤ちを孕む過去とは、そこでは何の価値も持たない。
2020/01/20
DEE
スターリンによる大粛清は罪なき人々を殺すとともに文学や音楽などの芸術にも大きな影響を与えた。 作品がスターリンの意向に沿わず、あるいは誤解のせいで出版されなかったり、時には銃殺されたりと、まさに命がけ。戦った芸術家もいるが、その力に屈したとしても誰に責めることができるだろう。 そしてこんな時代は二度と繰り返してはいけない。 数々の事件の時代背景、歴史書を基にした考察などずっしり重い内容だが、文学的に書くことを目的としているそうなので、自分のような歴史に疎い人間には適した書かもしれない。そして構成が見事。
2020/08/29
Ex libris 毒餃子
スターリンとソ連芸術家との関わりについて。スターリンが帝政ロシア時代に二重スパイであった証拠「オラフナ・ファイル」を巡るソ連政治家の粛清構造とそれに関わる芸術家の攻防が新鮮な視点だった。「オラフナ・ファイル」と関わらない芸術家についてもNKVDからの監視やスターリンからの圧力で死亡していくのはソ連的。
2019/10/22
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