女中譚
女中譚 / 感想・レビュー
pino
嘗ての女中、スミはアキバのメイドカフェを訪れては語る。男、お嬢様、老作家のこと。昭和初期を生き抜いた女の物語だ。『小さいおうち』に登場する健史がいだいた女中のイメージは寧ろスミに近いのだろう。二・二六事件前後の、スミとタキの状況を読み比べると二人の人生を象徴している様で興味深い。共通点があるとすれば美への憧れ。釦、リボン。スミは命を貪る様に踊る。狂ったネジには巻かれてみるがノイに売られる女なんて真っ平ごめん。擦れっ枯らしの女の意地だ。当時のように狂った空の下、抜け落ちたネジは人知れず生き続けるのだろう。
2015/07/05
新地学@児童書病発動中
現在の秋葉原のメイドと昭和の女中を結びつける着想に脱帽。中島さんはこの時点では直木賞を取っていないが、こんな小説が書けるのなら賞を取るのは時間の問題だったと思う。女性を搾取することと戦争を始めることには共通点があるような気がする。その意味でこの連作は『小さいおうち』のプロローグなのだろう。厳しい時代を生き抜いていく「すみばあさん」には、中島さんの女性たちに対するエールがこめられていると思う。
2014/05/05
chimako
「女中」という言葉を現在では聞かないが一昔前までは少し裕福で家業の忙しい家庭では珍しくない職業だった。祖母は製陶業の家に生まれ女中さんが家事をする家に育ったと聞いた。この物語は第二次世界大戦が始まる前の日本の都会が舞台。女給や女中を生業とししぶとく生きた女の譚。酷い男に手を貸しこちらから愛想を尽かす。外国人の奥さまとハーフの美しいお嬢様の世話係を言いつかる。陰気な作家の家で暇な女中生活を送る。どれも品が良いとは言えないスミさんがだらしなくも生き生きと、ある種の諦めをもってそこにある。永井荷風は確かに面長。
2024/09/12
風眠
情報が流れ続ける電光掲示板、途切れることのない雑音、人混みの喧騒。秋葉原にあるメイドカフェの常連「すみばあさん」が語るのは、非合法活動、二・二六事件、ナチスの台頭という昭和初期の頃のこと。女中やカフェーの女給をして暮らす一方で、男の悪事の片棒を担いだり、浅草レビューのダンサーを夢見たり、若さと女をとことん利用して「すみ」は厳しい時代を生き抜いた。誰に聞かせるでもない「すみばあさん」の昔語りは、現代の秋葉原と昭和モダンの頃を自由に行き来する。林芙美子、吉屋信子、永井荷風が描いた女中小説へのトリビュート作品。
2014/01/25
takaC
面白い。中島さんは安定感があるので安心して読める。残念なのは、林芙美子、吉屋信子、永井荷風の女中小説を知らずにこの小説を読んだことかな。
2012/01/10
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