海に沈んだ町
海に沈んだ町 / 感想・レビュー
pino
近未来的で懐かしくもある短編集。物語には流れる時間から「現在」だけが抜け落ちたような心もとなさがある。「過去」「未来」のどちらに主軸をおいて生きるのか迫られているようで心がざわつく。今ある日常が、明日もやってくると思い込んでいる「安穏さ」を問われると返す言葉もない。モノクロ写真から幼き日の記憶がよみがえる。住んでいた家の前に、突然(そう思えた)団地が現れた。敷地に入り壁を触った。手に付いた白い粉は嗅いだ事のない匂いがした。未来の形?あやふやな。せめて、色のない空にカラフルな風船が舞い上がる空想をしてみる。
2014/02/07
kishikan
三崎亜記さんといえば、確か元久留米市役所?の職員だったと思うが、そのせいか彼の小説は「町」やそこに住む人々の暮らし・コミュニティを意識したものが多い。もちろん、そこには災い(個人では制御できない戦争や天災・地変など)という個別のテーマがあり、その対極として、愛や友情、思い出、悲しみなど、人間の持つ感情を織り込んだ世界を描いているところが、彼の小説の特色なんだろう。そんな魅力がたっぷりの九つの短編集。僕としては「海に沈んだ町」「団地舟」「四時八分」が印象深い。白石ちえこさんの写真がさらに魅力を高めている。
2011/04/07
しろいるか
やっぱり三崎さんは長編より短編がいい。特に本作は白石ちえこさんのモノクロ写真と三崎さんのある種のパラレルワールドとのコラボが見事。作品も甘い後味のものあり、寂寥感漂うものあり、ブラックあり、現実に起こりそうでうすら寒くなるものあり、とバラエティ豊か。そして現代社会の政策や世相を軽く批判している風でもある。哀しい物語なのだが『団地船』『四時八分』が印象に残った。
2011/07/06
nyanco
「廃墟建築士」や「鼓笛隊の襲来」の様なありえないのに凄くリアルティのある不思議な作品の短篇集。住人たちが淡々と不思議な状況を受け入れている様子が三崎作品の面白さ。四時八分は恒川さんの「夜行の冬」に少し似た感じで雰囲気がとても好き。トンネルの先の次の町も気になります。書き下ろしの「ニュータウン」も、らしい作品で最後には少し愛を感じられて…。短編同士が少しずつリンクしていくのもファンには嬉しい。どこかの辻をひとつ間違えてしまうと、迷いこんでしまいそうなすぐ隣にありそうな三崎ワールドが大好きです。 続→
2011/01/20
れいぽ
不条理な世界のルールを淡々と受け入れる三崎ワールドの住人たち。そこにあるのは諦めではなく受容。声高に未来を連呼するのではなく、目の前にある幸せをひとつひとつ掌に載せてそっと包み込むような穏やかさ、それこそが人の持つ強さだと確認させられる。人にも町にも、再生する力があるのだ。
2011/03/29
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