ことり
ことり / 感想・レビュー
ヴェネツィア
どこまでも孤独で、寂寥感に満ちた物語。ポーポー語という響きもまた、作品世界に寂しさを添える。兄とこの世界とは、ただ一点"ポーポー"においてのみ接点を持っていた。弟には、最初は兄、その後は図書館司書や幼稚園の園長等との人間的な繋がりは、かろうじてあった。やがてはメジロだけになるが、それでも彼は不幸ではなかっただろう。では、幸福だっただろうか?人間は社会的存在であることから免れることはできないのだろうか。彼ら二人は、けっして愛を拒絶しているわけではないが、愛からは拒絶されているかのように見える。
2014/11/02
遥かなる想い
小川洋子12年ぶりの書き下ろし長編小説。 兄と弟だけの言葉..小川洋子の小説は「喪失」をテーマにした本が多いような気がするが本書は他の人とは言葉の会話ができない兄と、小鳥を愛した弟の、最初から世間との繋がりが希薄で、ある意味静かで「しんとした」小説である。そこには最初から喪うものはなく、潔い。 兄が死に残された弟の静かで穏やかな生き方は 静謐な世界であり、司書との淡い恋も慎み深いやりとりに留まっている。「小鳥のおじさん」の一生は幸せな一生だったのだと思う。
2013/06/30
風眠
小鳥の小父さんと呼ばれた人の一生を、ひっそりと美しい文章で綴った物語。生きた証を遺すような人生ではなかったけれど、日々を生きて一生を全うした市井の人の姿がそこにある。小説の主人公としては少し平凡すぎるけれど、時代が移り変わって、世の中の価値観が変わっても、自分を貫き日々を静かに生きた小父さんに心打たれた。そして(おそらく障害を抱えた)ポーポー語を話す兄が亡くなってからの小父さんの日々に訪れた、世の中の急激な変化と現実の残酷さに、寂しくなる。たぶん私も、誰の人生も、晴れの日ばかりじゃない、けれど生きていく。
2013/04/26
青乃108号
小鳥の話ではなく、小鳥を愛したおじさん【ことりのおじさん】の優しい物語だった。【ポーポー語】しか話せなくなったおそらく発達障害の兄と2人ぐらしのおじさん。おじさんはゲストハウスの管理人の仕事をしながら兄の世話をし、幼稚園の鳥小屋を毎日掃除する。そんなおじさんにも発達障害の片鱗が見てとれる。ある日立ちよった、図書館分館の司書にほのかに寄せるおじさんの心情が切ない。おじさんは怪我をしたメジロを献身的に手当てし、元気になったメジロの鳥籠を抱きながらようやく解放される。良かったね。おじさん。
2022/05/23
たー
小川洋子ワールド全開だなぁ。良い話だなぁ…
2013/05/26
感想・レビューをもっと見る