沈黙の町で
沈黙の町で / 感想・レビュー
ヴェネツィア
奥田英朗は作品によって随分印象が違う作家だ。本書はそんな彼が精魂を傾けて執筆した作品の中でも、その最たるものだろう。発端は、中学2年生の男子生徒がクラブ棟の屋根から転落死したことに始まる。地縁、血縁の色濃く残る関東地方の小さな町での出来事である。事件の当事者の両親や近縁者、加害者かも知れない4人の生徒たちとその保護者たち、担任や校長など学校関係者、捜査に当たった警察および検察など、事件はこれらすべての人たちを動かしてゆく。そして、奥田英朗は、彼らの置かれた状況と心理を実に巧みに掘り起こしてゆく。
2021/11/14
風眠
死んでしまった子だけが、何だか蚊帳の外。みんな自分が可愛くて、みんな怖がってる。自殺か事故か、いじめられていた中2男子の死体が校内で発見されたことをきっかけに、少年とかかわりのあった人たちの嫌な部分が、これでもかと現れては、さらに上書きされていく。集団心理は、そうとは気づかないうちに人間を残酷な生き物に変えてしまう。いじめと言う名の暴力をふるう生徒、甥の死をたてに損得勘定しかない叔父、学校に責任転嫁する加害生徒の親たち、みんな誰かのせいにしている。連鎖するいじめ、読み終わっても何が正しいのかが分からない。
2013/07/20
kishikan
奥田さんらしくないけど、でも奥田さんらしい小説だった。いじめとこどもの死という事件を扱った小説は他にもあるけど、「沈黙の町で」はいじめ事件だけを主題にしたものじゃない。親子問題や親の心情、先生のあり方、友人関係、多感な中学生の揺れる感情、マスコミ、警察、検察、弁護士、などなど、ありとあらゆる現代社会の問題を取り上げている。それも問題を投げかけてはいるけど、決してどんな解決をすべき、とは言わない。これが新聞連載だってことこそ奥田さんのすごさだ。この小説を読み、読者は何を感じどう行動するのか。それがテーマだ!
2013/06/06
ダイ@2019.11.2~一時休止
中学生の死がいじめによるモノなのかどうか?という薬丸さんが書きそうなテーマ。読み進めていくとドンドン死んだ子の心象が変わっていき、終わりはいつもの感じです。
2016/06/06
じゅん兄
被害者少年の心情を思うと切なくなる。過保護に育ったせいだろうが、彼は彼なりのプライドを捨てきれなかったのだと思う。虐められたり同情されたりする弱い人間だと思いたくない思われたくない。だからパシリにされているのでなく奢ってあげていると見せたいし、同級生が庇ってくれたり助けようとしても、素直に頭を下げられず虚勢を張る。年下や弱い相手には自分が強いと見せたがる。そしてその現実とのギャップを埋めるために存在しない兄弟との空想世界で理想の自分を演じていたのだろう。実際にいるよ、こういう少年。
2013/07/24
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