椿宿の辺りに
椿宿の辺りに / 感想・レビュー
ヴェネツィア
小説の巻頭に置かれた「冬の雨」は痛みに始まる物語として定位される。以下にはそこから次第に脈絡をたどって行くごとく、縷々物語が展開してゆくのだが、文体も小説作法も私が了解していた梨木香歩のそれとはかなり異質なものであるようだ。後段において(最初から気づいていた読者もいるかもしれないが)これが『f 植物園の巣穴』の続編であることがわかり、そこで再度幻想世界に回帰して安心もし、納得もするのである。最初の違和感は、主人公たちの命名の仰々しさにもあったのだろうか。あるいは痛みが導く物語に共振することが躊躇われた⇒
2024/04/28
なゆ
前作「f植物園の巣穴」読んだとき、ちょっとした引っ掛かりを感じたのが、ここに繋がってきている。あの時佐田豊彦の話は歯痛から始まったが、今度は肩の痛みに耐える山幸彦と、股関節等々の痛みに苦しむ従妹の海幸比子という、痛みつながり。導かれるように辿り着いた鍼灸院、不思議な力を持った亀シ、海幸山幸の神話、宙幸彦の存在、謙虚な稲荷…。痛みをどうにかしようと動いた結果、自分のルーツを辿り、為すべきことを知ることとなる。過去は今、そして未来に繋がる…気になることを先送りするということの、ツケは複雑になる、ということか。
2019/07/18
のぶ
前半は親しみやすく、後半はやや難しく、不思議な世界を持った作品だった。「f植物園の巣穴」の姉妹編という事で意識して読んだが、本の終盤で繋がっていました。主人公、佐田山幸彦は肩の関節痛に悩み、治療に通うがなかなか良くならない。鍼灸院に行ったら、という助言を受け入れ診察に訪れる。そこで言われた言葉に従い、山幸彦は鍼灸師のふたごの片われを伴い、祖先の地である椿宿へと向かう。そこで古事記にある海幸山幸物語に3人目の宙幸彦が加わり、物語は神話の世界に展開していく。梨木ワールドがよく出ている一冊だった。
2019/05/26
nico🐬波待ち中
鬱に頭痛、腰痛、三十肩に頸椎ヘルニア…痛さの百花繚乱状態の佐田山幸彦。彼はあの『f植物園の巣穴』の主人公・佐田豊彦の曾孫。歯痛に悩んだ豊彦の痛みが伝染するかのように、山幸彦もまた様々な痛さに悩まされる。これはもう一族の宿命と言っても過言ではない。痛みの原因を探る内に一族の歴史を紐解くこととなり、またもや不可思議な世界へと誘われる。登場人物達のコミカルなやり取りに何度もニヤリとなり『家守綺譚』シリーズが読みたくなってきた。たとえ同じ時代に生きていなくとも、先祖とは確かに繋がっているのだな、としみじみ思う。
2019/07/05
ちょろこ
繋がりを感じた一冊。前作の巣穴以上にすごく好きな世界観。痛みから始まり導かれるように紐解かれる様々な物語、土地、歴史、自然、そして縁。全てが必然的だったと思うぐらいの繋がりなるものを感じた。自分に当てはめ、身体の内、外での繋がり、巡り巡るものを想像したくなる。巡る痛み、身体と心の繋がり、そして何よりバランスを保つことの大切さ、自分の中の「痛み」や「滞り」に目を向け向き合う時間の大切さを教えられた気分。梨木さんの紡ぐ言葉、世界がスッと沁み渡っていくこの心地よいひとときにもう少し浸っていたかったぐらい。
2019/06/12
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