生を祝う
生を祝う / 感想・レビュー
パトラッシュ
芥川龍之介の『河童』に描かれた、胎児が自らの出生を決められるシステムが人の世で実現したら。極限までの人権優先社会といえるが、子供に「生まれたくない」と否定された親には悪夢だ。妊娠中絶を巡り国論を二分するアメリカなら、反対テロどころか冗談抜きで内戦にもなりかねない。いくらでも大きな社会小説となる設定だが、物語は子から拒絶された同性愛カップルの苦悩に絞られる。膨大なディストピア世界の構築より、そこで生きねばならない小さな個人に作者の眼差しは注ぐ。人の作る制度や法律は人を幸せにするのか、根源的に問いかけてくる。
2022/06/11
とん大西
「私達の子として生まれてきてくれますか」。出生前の胎児に誕生の意思確認を行う合意出生制度。もはや世界で普遍的な制度として社会にとけこんだそんなに遠くない未来。読んでいて恐ろしい。倫理というものがひどく頼りないものと気づいて。こんな世にならないとは言い切れない時流の激しさを思い描いて。妊娠した彩華。お腹に新たな命を宿したその喜び。愛する人と生まれてきた子どもとともに日々を重ねていく幸福。が、問わねばならない法の非情。何が正しくて何が真実で…そんな議論も超越して命は芽吹く。生まれて…きてくれますか
2022/01/09
machi☺︎︎゛
初めての作家さんだけどどこか村田さやかさんを思い出すような内容だった。今からだいぶ先の近未来の設定で、その頃には安楽死も同性婚も当たり前のように認められている世界。妊娠したら出産前にコンファームというものを産科で受けそれに胎児が生まれたいという意思を示さなければ出産できない。勝手に産むと罪になる。言いたいことは分かるけど人間だから感情がある。そんなはい,そうですか。と割り切れるわけがない。その問題に同性婚をした彩華と佳織はぶち当たる。二人の出した答えが合っているのかは分からないけど私はこんなの絶対無理。
2024/02/06
なゆ
何が正解か、わからなくなってしまう。胎児の同意なく産むと犯罪のようになってしまう『合意出産制度』。生まれるのを楽しみに大切にお腹の中で育んでたのに、拒否なんてされたら…。胎児に示される判断材料の生きづらさの数値化とか、そもそもの判断能力とかどうなの?と思いながらも、何でも自己責任が行き過ぎるとこうなりそう。親ガチャなんて言葉から、こういう世界が生まれるのかな。同性婚のふたりが妊娠したのにこの制度の壁にぶつかって、意見が割れて思い悩むのだけど…ラストの展開にえええ〜?!で、余計にグルグル考え続けるはめに。
2022/04/08
茉莉花
世界で流行り病がおき、人口の三分の一が失われた。その50数年後のいま,「合意出生制度」が確立された。産まれてくる前の赤ちゃんに産まれてたいかという意思を確認し、出産するかが決まる制度だ。赤ちゃんが生まれることを拒否した場合は、産むことができない。産むと、『出生強制罪』という罪に問われることになる。この時代は、女性同士、男性同士でも結婚でき、さらには出産もできる。そんな世の中で、彩華と佳織は、女性同士で結婚し、赤ちゃんを身籠った。そんな二人の合意出生制度との向き合い方を描く。
2022/04/21
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