存在のすべてを
「存在のすべてを」のおすすめレビュー
ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、塩田武士『存在のすべてを』
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年12月号からの転載になります。 『存在のすべてを』 ●あらすじ● 平成3年に神奈川県で起きた二児同時誘拐事件。その30年後、当時事件を担当していた新聞記者の門田は知人の刑事の訃報をきっかけに、誘拐事件の被害男児が人気の画家になったことを知る。多くの謎を残したまま時効を迎えた事件にけじめをつけるため、門田は関係者への再調査を開始。日本各地を回り、地道な取材を続ける中、たびたび耳にしたのはある写実画家の名前だった――。 しおた・たけし●1979年、兵庫県生まれ。神戸新聞社在職中の2011年、『盤上のアルファ』でデビュー。『罪の声』で山田風太郎賞受賞、「『週刊文春』ミステリーベスト10 2016」国内部門第1位、2017年本屋大賞3位に。『歪んだ波紋』で吉川英治文学新人賞受賞。著書に『騙し絵の牙』『デルタの羊』など多数。 塩田武士朝日新聞出版2090円(税込) 写真=首藤幹夫 編集部寸評 折り重なる問いが導き出すクライマックス 「ちゃんとした理由なんてないんだよ。どっちで暮らすかなんか」。渦中の人物がこぼす一言が胸に突き刺さる。冒頭から二児同時誘拐という衝…
2023/11/6
全文を読む【2024年本屋大賞3位】児童虐待の相談は年間20万件以上。『罪の声』作者・塩田武士が描く、児童誘拐された少年の空白の3年間の意味
『存在のすべてを』(塩田武士/朝日新聞出版) 重厚長大な書物とはこういう本の為にあるような言葉だ。塩田武士『存在のすべてを』(朝日新聞出版)は、上質のミステリ小説でありながら、同時に、ミステリの定石を次々に覆していくような、志の高さと射程の長さが感じられる傑作である。塩田氏の代表作と言えば、第7回山田風太郎賞を受賞した『罪の声』(2016年)が度々挙がるが、子供が事件に巻き込まれる、という意味で同作と『存在のすべてを』には連続性がある。両作を読み比べてみるのも一興だろう。 多面的な魅力を備えている本書だが、なんといっても設定の面白さに舌を巻く。まず、別々の場所で2人の児童が同時に誘拐されたら、という着想からして冴えている。誘拐を題材にした小説にはある程度定型があるが、塩田氏はそこをひとひねりしている。警察が最初の事件を「おとり」にして、ふたつ目の事件を解決しようとする展開も斬新だ。だが、2件目の事件では、警察の判断ミスによって犯人を取り逃す。被害当時4歳だった亮は行方不明になるが、3年後、彼の両親ではなく祖父母のもとに突如戻ってくる。 実際に3年間亮を育てて…
2023/10/29
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2024/4/10
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2024/2/25
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存在のすべてを / 感想・レビュー
パトラッシュ
事件と犯人と捜査を描く通常のミステリに対し、塩田さんは事件に巻き込まれ運命が狂った群像劇を主題とする。未解決に終わった二児同時誘拐事件から30年後、被害者のひとりが画家になったことから若き日に事件を取材した記者が再調査を始め、停まっていた時間が動き出す。思いがけず誘拐された子を預かってしまった夫婦が、情が移った子供を慈しんで育てる前半は息苦しいほどに読ませる。その夫婦をはじめ関わった人びとは、口外できない秘密を抱え必死に生きていく。彼らの苦しさ、切なさが収束していくラストの光景は、まさに魂のドラマなのだ。
2023/10/05
bunmei
冒頭の2つの誘拐事件から端を発し、その後の30年もの長き歳月における一つ一つの布石がよく練り込まれた、重厚な塩田ミステリー・サスペンス。その分、登場人物も多く、描かれた時代も前後する為に、分かり難さもあるが、ラストで、誘拐事件の裏に隠されていた真相に辿り着いた時、思わず感涙が頬を伝った。作中の言葉「生みの親より育ての親」が本作の根底に流れ、親子の絆とは何かを問いかけてくる。一方で、芸術作品の裏にある画壇における醜い派閥争いも垣間見れ、それが背景にある事で、アート・ミステリ―としての面白さも加味している。
2024/03/25
うっちー
これは面白い。本屋大賞候補一番手と思います
2024/02/21
大阪のきんちゃん2
圧巻!稀代のストーリーテラー、圧倒的なリーダビリティに唸らされるばかり。作家の力量に感服です。 「逃亡小説」というジャンルがあるのか存じませんが、角田光代「八日目の蝉」のラストで涙したのと同じく、別離のシーンで感動に打ち震えてしまいました。 そして結末の素晴らしいこと!幾重にも重なる再会がそこに待っていて、更なる感動を覚えます。 読書の醍醐味はこのような小説を読んだ時♪長く待った甲斐がありました。おススメです!
2024/08/01
はにこ
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2024/03/30
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