文学地図 大江と村上と二十年 (朝日選書 850)
文学地図 大江と村上と二十年 (朝日選書 850) / 感想・レビュー
ソングライン
1980年代後半、1990年代の半ば、2000年代の半ばの新刊文芸の書評がまとめられた第一部と、第2部では作者お気に入りの大江健三郎と村上春樹の共通点、単一の主人公の登場しない物語の出現、そして沢木耕太郎「血の味」村上春樹「海辺のカフカ」に描かれる親殺しの文学の考察が載ります。初期村上作品の主人公の受動性を批判した大江の初期作品には、実は共通する受動性が存在する、現代では無償ではない有償を求める親子関係への変化が親殺しを生むとの論説が印象に残りました。
2020/01/22
梟をめぐる読書
三期分の時評と三つの評論を収録。「関係の原的負荷」は親の愛が無償ではなく、有償のものでしかないという「気付き」が子供の心に与える負荷について。「大江と村上」は従来行われてきた「大江か村上か」式の評論への更新の呼びかけ。「『プー』する小説」は「人物」主体から「出来事」へ、という内容はともかく、如何せん「プー」という単語の語感に頼った言葉遊びに走りすぎ。しかしいずれの評論も、これまでの文学の歩みばかりでなく、これからの文学の発展を見通すための未来の「地図」になり得る可能性を秘めている。
2012/10/16
KA
「大江か村上か」から「大江と村上へ」という見取り図があまりに素晴らしい。やっぱり加藤典洋は最高だ。
2021/10/06
echo.
哲学書、とりわけ現象学のしっかりした論のあとでこういう短文の評やエッセイっぽいものを読むと「加藤典洋って案外雑な人のかなあ」とギャップに驚いてしまうが、嫌いじゃない。オン/オフを使い分けているのが明確な人が私は元来好きなので。あと、とにかく村上春樹が大好きなんだなあと大御所であることも忘れて微笑ましく読んだ。力が抜けていていいですね。
2017/01/08
КИТАРУ МУРАКАМУ
文芸時評が3つ、バブル期、湾岸戦争期と所謂、ゼロ年代。3つの評論は、「大江と村上」の周囲を巡る相互補完的な言説の表れ、、「プーする小説」は一人称の稀釈あるいは消滅。一番刺激的なのは「関係の原的負荷」であり、子殺しと親殺し、子と親の関係の変質、そして、その代償
2010/11/27
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