貴婦人Aの蘇生 (朝日文庫 お 52-1)
貴婦人Aの蘇生 (朝日文庫 お 52-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
これまでに読んだ小川洋子さんの作品とは違って、これは小説世界が非日常に紛れ込んで行かない物語。ここでは終始一貫して日常の中で展開し、終息してゆく。もちろん、日常の次元にあるとはいえ、通常のそれとは様々な意味において違ってはいるが。いつもながらという点で言えば、ここでも独特の物語世界を構成して行くのが実に巧みだ。ただし、この小説に限って言えば、やや作り物めいた感がなくもない。そしてそれは、怪しげな登場人物のオハラや、さらには表題となっている貴婦人Aそのものに付き纏うフェイク感にも通じるものなのだ。
2013/07/18
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
"普通"から外れてしまった人たちをなんとフラットに愛せるのかと小川洋子さんの作品を読むといつも思う。自分にとっての損得だけを考える生き方は、賢いようでいて何処かさもしい。でも自分と違う価値観の人を正しく見極めるのはとても難しい。私はきっと伯母さんの出自の真偽を見極めたくなるだろう糾弾したくなるだろう。嘘をついていたと断罪して。何様なんだろう。 彼女の心を守る手段だと、哀れみではなくやさしい気持ちになれるかな。難しいな。でもなりたいな。
2020/11/30
優希
生と死、「剥き出しのもの」と「隠されたもの」に満ちていました。剥製に囲まれて穏やかに生活する貴婦人。刺繍を刺すこの貴婦人は果たして本当にロマノフ王朝の生き残りなのかはずっと明かされません。このミステリアスさが失われた世界と共に美しく描かれていました。静かにこの世に取り残された物と過ごす不思議な空気は貴婦人がAだからなのでしょうか。普通とは思えない、日常とかけ離れた空気が独特の音楽を奏でているような作品でした。衝撃の最後も著者らしさを感じます。
2015/11/28
ひろちゃん
伯父さんとお父さんが死んでから伯母さんと暮らし始める女の人の物語。全く関係ないけど、小川洋子さん倉敷市にすんでたんだ!
2015/11/29
Vakira
ヨーコさん長編では8作目。「沈黙博物館」とこの1年後に書かれたあの名作「博士の愛した数式」の間の作品となる。個人的勝手な解釈だがヨーコさん節は大きく2パターンあると思う。哀妖艶愛小説と静哀奇愛癒(静かで哀しく、くすしく、愛しく癒される)小説。今回は「博士の愛した数式」に繋がる静哀奇愛癒小説のパターン。登場人物のトリプル主演の構成は「博士・・・」に類似している。でも世界観は「沈黙博物館」。故人の遺留品は代わって動物達の剥製となる。ここでも生命の存在の証がヨーコワールドの1つのテーマとなっている。
2022/07/27
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