家庭の医学 (朝日文庫 ふ 25-1)
家庭の医学 (朝日文庫 ふ 25-1) / 感想・レビュー
アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
癌に侵された母親を看取るまでの様子を淡々と描いたノンフィクション作品。難病ものにありがちなベタついた感傷は無く「貧血」「薄暮睡眠」「転移」から始まり「無能力」「嘔吐」「睡眠恐怖症」「モルヒネ」「幻覚」などを挟んで「火葬」で締めくくられる。家庭の医学事典のように。癌が見つかり治療を始め、やがて手の施しようもなくなり、衰えて死んでゆく母親の様子も、献身的介護の様子も抑えられた文体で描かれているからこそ余計に胸に迫った。
2016/11/05
こばまり
娘達が母を看取り、弔うまでの物語。人はがんを患うとどんなプロセスを辿ることになるのか、去りゆく母とはどんな人物だったのか。冷静な文体に、却って心揺さぶられます。病で近親者を失った方には読み難いかもしれません。
2014/10/07
トラキチ
作者の母親への愛情を綴ったノンフィクション作品で母親の癌発病から亡くなるまでを静かに語ります。 特徴はなんといっても最初の貧血から火葬まで各章ごとに16項目から成り立っていて、各章の冒頭に辞書的な意味合いが添えられ、その体裁が邦題のタイトル名ともなっていると思われます。それぞれの介護におけるプロセスが柴田氏の抑制の効いた丁寧な訳文で綴られていて、極端に感情移入される方はちょっと辛すぎて危険かもしれませんが(笑)、作者の母親に対する愛情と読者自身の母親に対する愛情とを照らし合わせて読むべき作品だと言えよう。
2014/05/02
あんこ
古本屋で手にとったら、帯にカワカミさんと小川さんの名前、翻訳が柴田さん。タイトルや章題は無機質で、どんな内容なのか分からずにいた。病気で死にゆく母親の「介護文学」。冷静ともとれる観察日記のようで、あまり感情は出されていない。だからこそ、静かで、大切なものの隣に寄り添う愛と哀しみが浮き彫りになる。すぐそばで、ゆっくりと誰かが衰えていくのを見ることほどつらいものはないのに、この作者は最期まで母親、そして彼女の死と対峙したのだなと感じた。また、死の受け取り方は人によって様々あるのだ、とも。
2015/10/02
紫羊
淡々と目の前で起きていることを記した、身内による記録文学としては特異な作品だと思う。著者個人の困惑や悲嘆が抑え込まれているからか、死に向かって変容していく著者の母親の姿が、反って妙な近さで迫ってきた。だから読んでいる間ずっと、私自身の母親が亡くなる過程がリアルによみがえり精神的にきつかった。もともと好きな作家ではなかったが、さらに嫌いになりそう。でも、これがプロの作家というものなのかもしれない。
2023/12/25
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