シンセミア 4 (朝日文庫 あ 39-4)
シンセミア 4 (朝日文庫 あ 39-4) / 感想・レビュー
James Hayashi
出だしのぶっ飛び感も落ち着き、結末も予定調和風になり、なんとも落ち着いた雰囲気の後半。町の住人に襲いかかった暴風雨が過ぎ去り、ようやく青空が冴え渡る様な物語り。伊藤整文学賞、毎日出版文化賞受賞。特に高橋源一郎や蓮實重彦などは「超がつくほどの傑作」と手放しで評価しているようだが、自分には後半が物足りなかった。
2018/08/11
ミツ
遂に読み終わってしまった。夏の終わりも相まってもうあの物騒な田舎町、やかましい変態たちともお別れかと思うと一抹の寂しさを感じる。膨張した各人の欲望が絡まり合い破滅へと向かってゆく様は、緊迫感とある種の爽快感を伴うが、どことなくキッチュなB級映画のようなフィクション性が際立つ。そこではまるで自分が作者阿部和重が神町に仕掛けた数多の監視カメラ映像を盗み観ているかのようであり、また読後は長大なエンターテイメント映画を観た後のような満足感と寂寞感に浸ることができるだろう。次作へを予感させる幕引きも良い。佳作。
2012/08/27
fishdeleuze
不愉快な人間たちが起こす胸糞悪い出来事で満ちあふれている。にもかかわらずページをめくってしまう。何がそうさせるのか。物語の力というか(もちろんそれもあるのだろうが)、ひょっとしてこの作家はヒトの快不快のスイッチをいじるのがうまいのではないだろうか。挑発的な物言いで感情の閾値を下げてしまう。長編小説によくあるドライブ感で読ませるものとは読後感が異なり、まるで作者自身が作った精緻でグロテスクな箱庭を、ひとつひとつ説明した後おもむろにぶちまけて破壊するというような、偏執的な精緻さと暴力的なカタストロフがあった。
2016/07/30
スミス市松
たしかにこの小説には他のどの小説とも似つかない面白さがある。日本文学の新たなパースペクティヴであるという見方もあるかもしれない。しかし私にとって、そんなことは実はどうでもよかった。本作を読み終えたいま、自分でも信じがたいのだが、二〇世紀最後の夏に起きた一連の悲惨な事件や神町に住む変態たちのことをただひたすら懐かしく思うのである。そしてもうひとつ、世界中の明るく晴れた「昼」を真っ暗な「夜」に塗りかえるために「撮る人」と「書く人」に分裂した、ふたりの、いや、ひとりの男のことを私は考えずにはいられないのである。
2012/05/02
James Hayashi
読み手を選ぶ作品だが、傑作に挙げたい。群像劇であるが迫力に圧倒される。芥川賞受賞前の作品だが、2つの賞を受賞されている。読む人が読むとわかる凄さ。永久保存したくなる。再読。
2021/02/05
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