「新しい人」の方へ (朝日文庫 お 40-4)
「新しい人」の方へ (朝日文庫 お 40-4) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
本書は、子ども(中学生が主体)と、その母親に向けて語りかけるように書かれたエッセイ。もちろん、それ以外の読者にも開かれている。『「自分の木」の下で』の2冊目として書かれたようだ。大江氏の幼少の思い出も語られるが、それも含めて、ここでは若い人たちに託する未来への希求が静かに述べられている。大江氏は、クリスチャンではないと思われるが、新約聖書の「エフェソの信徒への手紙」を引いて語られる「新しい人」は実に感動的だ。彼は自分を「新しい人」にはなれなかった「古い人」として、バトンを未来を担う若い人たちに託すのだ。
2014/06/04
あきあかね
自身の少年時代、青年時代の経験を基に、子供たちに向けて書かれた本書は、大江健三郎版の『君たちはどう生きるか』とも言えるだろう。 平易な言葉遣いであるが、「意地悪さ」への立ち向かい方、ウソをつかない力をつけるといった文章には、時に大人もハッとさせられる。 本の読み方についての文章も、子供だけでなく、大人も参考になると思う。著者のフランス文学の師は、卒業にあたって、ある作家や詩人、思想家を決めて、その人の本や研究書を二年から三年集中して読み続けるようにと言う。そして、4年目には別の作家、新たなテーマへと⇒
2019/07/22
マッピー
だいたい高校生を想定して書いた本とのことですから、難しい言葉は使っていません。高校生に向かって語りながら、やはり私たち大人にも伝えたいことがあるはずです。高校生に考えろ、行動しろというのなら、私たち大人だって考えたり行動したりしなければいけません。“敵意を滅ぼし、和解を達成する「新しい人」になってください。「新しい人」をめざしてください。 「新しい人」になるしかないのです。”読んでいて、平和を希求する強い気持ちを感じました。2003年に書かれた本。今ならどんな言葉で若い人に語りかけるのでしょう。
2015/06/14
しょうじ
本は素晴らしいなぁ。このような書を読むと、少しだけ知識人の会話に入れてもらえたような気分になる。自分はこんなに堅城な構えはできないけれど、土台は見習いたい。 子ども向けに書かれた本なのでとても理解しやすい。でも、それぞれの経験談は胸をえぐられるものがある。勇気がでなかったために長年抱えることになった思いや、からかわれたために書けなくなった詩のこと。私は子どもの心の大切なものを壊さずに育てられているだろうか。気を付けないと。それは大きいものより壊れにくいかもしれないけれど、とても柔らかくて変形しやすいから。
2022/10/07
ダージリン
若い人向けではあるが、実に大江氏らしい文章という気がする。雑に生きず、歩みは遅くとも、丁寧にしっかり考えて生きるよう励まされる思いがする。読みながら、大江氏が良く使う「エラボレーション」という言葉が自然と思い浮かんだ。新しい人になるのは難しいことだろうが、愚直にエラボレーションを続けながら、新しい人になることを目指して生きていけたらと願わずにはおれない。
2020/06/15
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