しろいろの街の、その骨の体温の (朝日文庫)
しろいろの街の、その骨の体温の (朝日文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
小説の舞台に選ばれたのは、都市の郊外から、そのさらに先に延伸したところに造成されつつあるニュータウン。そこは結佳を拒絶するかのごとく、何もかもが真新しい「しろいろの街」だ。しかも、資金が続かなくなったために、一途中で開発が一旦放棄されたがために一層出口を失ったかのような。この町が結佳の喩であるなら、そこには希望が仄見える。しかし、物語の終盤にいたるまで結佳をはじめ、女生徒たちは厳然たるスクールカーストに絡みとられていて、身動きができないほどだ。それがヒリヒリとするほどの強いリアリティを持って描かれる。→
2018/06/30
absinthe
クレイジーとも呼ばれる沙耶香様のこれまたピュアな愛の物語。いびつな形で拡張の止まった骨のようで貧相な街に住む、いびつな形で成長の止まった骨のようで貧相な少女の話。スクールカースト最底辺の話だが、その内面は凄かった。描写に全く容赦が無い沙耶香様。女性にとって容姿というときっと男からは想像もつかない意味を持つだろう。小3のぼーっとした娘もそろそろこの時期に差し掛かる。最後、トンネルを抜けていく主人公の描写にまだまだ明るい未来を見た。
2019/10/27
さてさて
『大人になったらテレビや雑誌の中のような女の子に普通になれると無邪気に信じていた私は、現実の残酷さに溜息をつくばかりだった』。主人公の結佳が、同性間の複雑な関係性を生き抜きながら、異性の伊吹と不思議な関係性を続けていく姿が描かれるこの作品。そこには、あまりにもリアルな”性”の描写が、読者の心を惹きつけてやまない、多感な少女の姿を描く物語がありました。『女の子』の”からだ”と”こころ”の悩みを赤裸々に描くこの作品。少女の姿を巧みに描く村田沙耶香さんの筆の力にただただ圧倒された、素晴らしい作品だと思いました。
2024/04/05
優希
第26回三島由紀夫文学賞受賞作。静かな衝撃が体の中を貫きました。女の子から少女へと移り変わる小学生から中学生という時間は、思春期ならではの閉塞感を感じる時期なのだと思います。自分の想いを嫌い、それを誰かにぶつけること。成鳥と共に感じる鬱屈した感情。そんな姿を丁寧に描くことで、同じ時間を共有しているような、追体験しているような感覚に陥りました。ヒリヒリした傷と孤独の中の価値観が美しく残酷に輝いているのを感じます。
2017/08/09
關 貞浩
造成されてゆくニュータウンとそこで育ってゆく子どもたち。教室を支配する封建的な価値観を絶対視する結佳の視点を通じて描かれる思春期の歪みと、不器用なやり方でもがきながら、伊吹との関わりを通じて彼への憧れと鬱屈を重ねてゆく彼女の姿がいじらしい。伊吹の造形が理想的すぎると思ったが、外の世界を象徴する彼を“幸せさん”と形容することで、一貫して結佳の閉じた世界へのアンチテーゼとして機能させ、終盤の展開に爆発力を与えている。嫌いだった自分をこの街に葬ることで生まれ変わる世界。この物語はそれを奏でる二人の讃歌のようだ。
2022/01/20
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