この君なくば (朝日文庫)
この君なくば (朝日文庫) / 感想・レビュー
ふじさん
攘夷か開国かで揺れ動く九州・日向の五代藩。主人公の楠瀬譲は、貧しい家の生まれながら檜垣鉄斎にその才能を見出され、大阪の適塾で学んだ俊才で、藩主・五代忠継にその才能を見込まれ藩の重責を担うことになる。一方、鉄斎の娘の栞は、譲に思いをよせながらも、思いは叶うのか?、どんな結末を迎えるのか。幕末の混乱期、幕末の荒波に翻弄されながらも、九州の小藩の生き残りに命を捧げる男たちと必死に家を守る女たちを丹念に綴っていく。見方を変えれば、時代の流れに翻弄されながらも、愛を貫いた男女のラブストーリ、面白くない訳がない。
2023/06/06
真理そら
再読。咸宜園を思わせる「此君堂」という私塾で父亡き後ひっそりと和歌の指導をしている栞。父の弟子で今は藩主に認められて藩政にいそしむ楠瀬譲と栞は互いに思いあっているがその気持ちは秘めたままである(このあたりがいかにも葉室作品っぽい)藩士達が幕末を小藩はどう乗り越えるべきかを考えて行動しているのが興味深い。楠瀬の亡妻の妹・五十鈴は譲の後妻になることを自他ともに認められているが、肝心の譲は乗り気ではない。維新の混乱の中での恋物語をしっとりと描くことの難しさを五十鈴のキャラが効果的に補って気がする。
2022/09/27
優希
静かに語られる物語に引き込まれました。市井の人々の関わりが優しいですよね。歴史では知ることのできない想いを見たような気がします。男女の恋愛が大切な人がいることを表現しているのでしょうか。
2022/02/18
RINKO
この時代に栞さんのような強い心を持って生きることはどんなに大変か。私も静かにひたむきに誰かを何かを思うような、芯の通った生き方がしたいなあ。また五十鈴さんも生き様が爽快で素敵です。
2015/11/05
蒼
幕末の何もかもが激しく軋みながら変動する時勢の中、「この君なくば1日もあらじ」の思いを胸に凛と背筋を伸ばし、愛する人を家族を家を守り抜いた夫婦の物語。藩主夫妻が譲と栞を影に日向に支えてくれる姿が清々しい。「藩を離れ身分を離れても、おのが信義の道をゆく者がこの国を動かす」藩主妻五十鈴の言葉に、動乱の時代の武家の妻女の戦いを見る思いがした。新政府のというより健吾の栞への横恋慕から、譲が命を落とすのではないかとハラハラし通しだったが、竹の落ち葉を踏む音が聞こえるシーンにようやく安堵の息を洩らしページを閉じた。
2018/07/18
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