ヤモリ、カエル、シジミチョウ (朝日文庫)
ヤモリ、カエル、シジミチョウ (朝日文庫) / 感想・レビュー
ミカママ
各章の冒頭にある子ども目線のひらがなが嫌〜〜と叫びそうになりながら。主人公はこの5歳のスペクトラム気味の少年なのかもしれないが、わたしには彼の母親や、ピアノ教師の母親に焦点を置いて読んでしまった。ひとりは夫を寝盗られながらも彼のもとを去ることができない(いわゆる)サレ妻。もうひとりはかつて婚外で他の男性を9年間愛しながらも、最終的に夫と添い遂げることを決めた女性。それは愛なのか執着なのか。ひとつ言えるのは「紙切れは最強」ってことだ。
2023/03/04
アン
小さな生き物に親しみを覚える幼稚園児の拓人の瞳に映る色とりどりの風景。拓人は虫たちと心を通わせる豊かな感性を持ち、彼の視点に寄り添い描かれるパートは特徴があり心が引き寄せられます。弟を気遣い見守る姉の存在が印象的。夫に心を束縛される母親、ピアノ教師の家族、隣家の老人や霊園の管理人などの心情を繊細に描き出し、不穏な大人たちの日常がありありと。言葉にするとこぼれ落ちそうな大切な気持ち…今ある世界の息遣いや気配を全身で味わう拓人の柔らかな眼差しが優しく健やかで、成長する姿が少し切なくもなる、そんな物語。
2021/05/05
ann
天真爛漫に見える子供の心の中は、実は不安や心配や悲しみでいっぱいなのを江國さんの作品を読むたびに思い出す。生きるのに夢中に見える大人の心の中は、実は猜疑心と惰性と憐憫でいっぱいなのを江國さんの作品を読むたびに再認識する。合わせ鏡のようにつながる寂しい世界。ひらがなの部分はただただ哀しくて可愛くて強い生命力を見せてくれた。
2018/08/26
hirune
読んでいるとずっと気持ちがザワザワする物語。登場人物たちの一人称語りが変わる変わるに繰り返されるので、その心情は赤裸々にストレートに伝わってくるから。生きていくのは綺麗事なんてほぼ通じない、理不尽もエゴもまかり通るよね、みたいな?ヤモリやカエルたちを仲間と認識して、まるで妖精みたいだと思った幼い拓人も段々人間の世界に近づいて、自然への感応能力が失われていくんですね。ホッとするような残念なような☆
2021/08/22
エドワード
夫婦と幼い姉弟の都築家と、姉弟のピアノ教師の家庭を軸に、様々な人生が交差する。こどもの心模様と、妻と愛人の対決の共存、江國香織さん以外ありえないネ。幼い頃の私は、拓人のようにヤモリやカエルと話していた。ピアノ教師の表情が読め、非言語信号を受信できた。ひらがなばかりの拓人のことばにしばしば<りかい>や<しゅうちゅう>という漢語が現れるのも実によくわかる。小学生の育実は言語能力の発達に伴い非言語能力が退化することを示している。こどもに分かることと分からないことの微妙さ。傍観者の倫子や児島の存在もアクセント。
2017/12/06
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