ゴースト (朝日文庫)
ゴースト (朝日文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
7話からなる連作短篇集。主人公も舞台設定もそれぞれに異なるが、「ゴースト」が全体を貫流する。そうは言っても、いわゆるホラーからはほど遠い。ゴーストたちの様態は色々であるけれど、そこに共通してみられるのは「喪失」である。彼らが此岸に残すのは怨念ではない。むしろ、儚く消えて行きそうな、かそけき想いである。それらが、生ける者たちとのたまさかの接点において慎ましく浮かび上がってくる。哀しみ、あるいは寂しさを織り込んでゆくかのような感情が私たちの内に波立つ。小説を読む喜びに震える時間がそこにある。推薦!
2021/11/15
chantal(シャンタール)
8月に読むには相応しい本だったなあ。色んなゴーストが出て来るんだけど、それはみんな戦争に関係したゴーストたち。中島さんの筆だけあって、時にユーモラスに語られるが、だからこそ戦争の悲しさがヒシヒシと伝わって来て、なんだか胸が一杯になってしまう。特に素晴らしかったのが「キャンプ」。とても想像力を刺激されるし、こんなに間接的にあの悲惨さを表現できるなんて、すごい。「廃墟」も良かった。ただただ「親日だから」と言う理由で台湾を賛美する人に読んでもらいたい。それがどれだけ有難い事なのか、きちんと理解してほしい。
2022/08/18
エドワード
みな戦争とつながっている、七編の幽霊話。いかにも神宮前にありそうな古い屋敷。主人公がそこで出会う、三人の女性-何となく素性が解る「原宿の家」。「ミシンの履歴」-古い道具は、幾多の苦難を乗り越えて、今ここにある。戦争経験者の曽祖父にだけ見える、リョウユウ。ヒトウが比島とは、私も解らなかった。「キャンプ」に登場する、ハンスとマルガレーテ-聞き覚えのある名前、そうか、ひとまねこざるの作者だった。東京の真ん中の「廃墟」。生々しい生活の痕跡は、写真に撮れないものだ。ゴーストは皆やさしい。怖いのは生きている人間だ。
2020/11/30
ちゃとら
読友さんのレビューを読んだ後にB offで出会った本。戦争が絡んだゴースト達の7編の短編集。「きららの紙飛行機」の悪戯盛りに亡くなった優しい少年の幽霊話が良かった。ラストの「ゴーストライター」はベタなジョークの数々に笑えました🤣
2022/08/24
ざるこ
7篇。幽霊は信じる派。ネット記事で読んだ「幽霊の寿命は400年」なんてのはどうかと思うけど世に溢れる体験談だけでももう絶対だと。生きてる身体は発するエネルギーで気配を感じるけど幽霊が発してるのはなんだろう?あのヒンヤリする、何かがそこにいる感じ。身も知らぬ相手だから怖いのか身内や友人ならOKなのか。謎だ。この7篇はどれも戦争に影響を受けてる。読み心地は優しいけど不意にその悲惨さや理不尽が覗く。戦後の浮浪児と現代の被虐待児が出会う「きららの紙飛行機」戦前から女を支えた流転のミシン記「ミシンの履歴」が印象的。
2022/08/02
感想・レビューをもっと見る