椿宿の辺りに (朝日文庫)
椿宿の辺りに (朝日文庫) / 感想・レビュー
ふう
椿宿という美しい響きと、「f植物園の巣穴」の姉妹編という案内に導かれて手に取りました。物語は今回も重苦しい「痛み」から始まります。昨年末にぎっくり腰になり、以来腰痛や背中の痛みに悩まされる身としては、共感できすぎて辛い前半でした。梨木さんの描く世界では、人や動植物、生命を育む自然も、そして太古から脈々と流れてきた時間も、すべてが絡み合って存在し、まるで発酵しているように独特の雰囲気が醸し出されます。心と体も。その絡み合いをむげに裁ち切ることなくあるべき姿のままに治めることで痛みも和らぐ…。おおらかな治療。
2022/09/11
NAO
主人公の名前が山幸彦で、従妹はなんと女性なのに海幸比子(通称海子)、山彦の佐田家の実家に住んでいたのが鮫島家で山彦と同年代の息子が宙幸彦、母親が竜子で宙幸彦の妻が泰子。「海幸山幸」の神話にゆかりのある名前ばかりで「海幸山幸」の現代版かと思うと、関連はあるけれど、それだけではない。この家、なかなかすごい家なのだ。兄弟の確執から、暴れ川の治水、活火山による地滑り。椿宿とは、何かと問題の多いところだったようだ。溜まりにたまった悪しき気が身体の痛みとなって出てくるというのも、なんとも超自然的で梨木香歩の話らしい。
2022/08/28
エドワード
研究員の佐田山幸彦はある日、原因不明の三十肩の痛みに襲われる。従妹の海比子も身体の痛みを訴える。彼らの名前は明らかに神話に由来する。痛みの原因を探るため、山幸彦は佐田家の実家のある遠い椿宿の地を訪れる長い旅に出る。生態系という言葉が出て来る。人も自然の一部だ。自然の一角が崩れると人の身体にも障りが出る。世界中で酷暑の日が続き、熱中症の危険に晒されている今この本を読むと、人の生活も地球の生態系の中にあり、山幸、海幸、昔から日本人を潤してきた宝物を次世代へ渡すこと、持続可能な文明へ転換する重要性を実感する。
2022/08/17
優希
三十肩と鬱に悩む山幸彦は治療のために訪れた椿宿で自分の名前のルーツを知ることになります。謎めいた歴史を見ているのが興味深かったです。優しい空気ながらコミカルさもあって面白い。『f植物園の巣穴』も読んでみたくなりました。
2023/07/24
piro
『f植物園の巣穴』から連なる奇譚。祖母の夢枕に現れた祖父の言葉、そして仮縫という名の怪しげな鍼灸院でのお告げに導かれ、かつて祖父・曾祖父が暮らした椿宿の旧家を訪れた山幸彦。散り散りになった縁が引き寄せられる様に巡り合った人たちの話から、椿宿の過去、そして佐田家の出来事が少しずつ明らかになっていく展開に引き込まれました。ありのままの自然、古くからの地名、そしてそれらを尊ぶ心。現代人が忘れがちな大切なことを、梨木さんの物語はそっと教えてくれる。何とも神聖な心地にさせてくれるお話でした。
2023/07/27
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