ケストナー: ナチスに抵抗し続けた作家
ケストナー: ナチスに抵抗し続けた作家 / 感想・レビュー
ゆう
ケストナーの伝記。主にナチスに執筆を禁じられながらも亡命せず、国内にとどまり続けた12年間にページを裂く。児童文学、演劇評論、詩人、脚本、小説、エッセイなど、多才な顔をもつ作家だったことに驚く。脚本を担当した映画が大ヒットするなど、何においても大衆に好まれた作家だった。そこには一貫して個人の側に立ち、物事をまっすぐに見つめ、ユーモア(時にはそれと紙一重の皮肉)を失わずに筆を取り続けた作家の姿が。表現せずにはいられない人だったのだろう。それだけに、ナチスに執筆を禁じられた12年の歳月が、あまりにも悲痛で重い
2019/04/30
フム
ヒトラーが首相となった1933年、ケストナーは書くことを禁じられた。それからの12年亡命することを拒否し、ドイツに残ることで時代の目撃者であろうとした。それは生きのびるのに綱渡りの日々であり、実際二度にわたる逮捕から釈放されたことは奇跡だ。そして終戦…だがケストナーは12年間のナチス時代を題材にした小説を書かなかった。戦後のドイツ人が自分達の過ちからなるべく目をそらそうとし、むしろナチスの犠牲者であると思いたがっていることもケストナーは見逃さなかった。それを変えていかなければという思いで晩年のしごとがある
2017/07/15
ぱせり
ケストナーのナチ体制化の生き方に圧倒され、彼のもっている性格の弱みさえ深みに感じる。「たとえどんなに深くココアの中に沈んでも、それを飲んではならぬ」という言葉が印象に残ります。同時に、戦前・戦中・戦後のドイツの人々の姿が浮かび上がります。「ベルリン」三部作のサイドストーリーのよう。
2009/12/09
ムーミン2号
ベルリン三部作のクラウス・コルドンによるケストナー評伝で、ケストナーが不倫の子であったり、マザコンであったり、というようなことも包み隠さず記している。ケストナーの児童文学にそれらが色濃く反映されていると確認できるが、そんな三面記事的なことを暴くことが目的の本ではないのは読めばすぐにわかる。人間に何が必要かを常に発信し続けた作家であり、我々がそれを忘れがちだということを感じないわけにはいかない。文学上のみならず、社会を鋭く見るということでも天才であったと思わされた。
2020/08/04
Y.Yokota
児童文学者の名高いエーリッヒ・ケストナーの伝記。書いたのはナチスの時代を描いた「ベルリン」シリーズのクラウス・コルドン。ケストナーの文章を意識してか、児童向けの弾むような調子で書かれていますが、大人でも十分知識を得られて良いと思います。まずケストナーはナチスに抵抗したという点ではやはり素晴らしい作家だと思う。しかしやはり自分としては母親の存在が気にかかる。親子愛といえばそうなのかもだけど、子どもを完全に一人立ちさせないことは、何かしら子どもの人間性に影響を与えているような気がしてならない。
2020/07/22
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