赤い蝋燭と人魚
赤い蝋燭と人魚 / 感想・レビュー
匠
酒井駒子さんの絵に惹かれて読んでみたら、随分前に読んだことのあるとても哀しくせつない童話だった。人魚のような「異質な者」というのはとかく悪い噂を立てられやすく、しかもそんな噂は信じ込まれやすい。彼女の美しさも努力も、創り出す素敵な世界も、はじめはそれに魅了されてたはずの人達が手のひらを返したようになってしまう。そういう物語は多いけれど、これは人間社会の中でもよくあることで、読む度いつも胸が引き裂かれる想いだ。ともするとブラックでホラーなんだけど、僕は人間の愚かさやおぞましさのほうにゾッとする。
2014/04/08
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
ことばだけだと残酷さ、ぶきみさを掬いとってこわい話に感じることもできるけれど、こうして絵と一緒に味わって、感じたのはかなしみだった。 人魚の娘の愛が報われなかったかなしみと、母の想いが実を結ばなかったかなしみと、欲を前に目が眩んでしまったかなしみと。 目の前に誘惑さえなければ思いやりだけで生きていけたのに、思いがすれ違ってしまったかなしさを切なく感じる美しい絵本。 すごく素敵な絵本だけれど、子どもの頃に読んでたらトラウマかも。パンを踏んだ娘みたいに。【小川未明読み比べ】
2019/09/14
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
暗く冷たい北の海に棲む人魚は、せめて娘には人の灯りの中で幸せに生きてほしいと思っていました。願いを込めて陸に産み落とした赤ん坊は、年寄りの夫婦に拾われていきました。赤ん坊は美しい娘に育ち、蝋燭作りで生計を立てていた夫婦の手伝いをするようになりました。娘が赤い絵の具で絵を描いた蝋燭は評判を呼びましたが、これが優しかった夫婦の心を少しずつ変えていったのです。人の心は弱く、時として醜いものです。暗く、悲しく、美しい物語。大正時代に描かれた童話を酒井駒子さんの素晴らしい絵が見事に甦らせました。2002年1月初版。
2015/02/22
♪みどりpiyopiyo♪
人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。■深い深いため息が漏れました。大正10年発表の小川未明の童話。哀れな娘が最後に残した3本の赤い蝋燭。人間のかなしみ。母の想い。■酒井駒子さんの描く、深い海と空の色、暗い闇から差す光。情感豊かな絵が やるせない物語を浄化して、少し救われた思いです。(1921年、2002年)(コメント欄に続く→
2017/09/08
りん@停電羽蟲
人間って。幸せって。そんな物は存在するのか。人魚の娘は神社に捨てられ最後は見世物にされ。愛おしく育てても湧き上がる欲は抑えられない。お金という悪魔の囁きに耳を傾けてしまう。愛情と自己利益の天秤。母親が願った幸せは粉々になり娘を売り飛ばされ、そんな目に遭わせた老夫婦へ母は復讐の化身と化す。蝋燭の真紅、背景の黒、空の光。小川氏の美しい文体に、酒井氏の芸術的なまでイラストタッチが素晴らしく互いに引き立て合う。美術館へ足を踏み入れた錯覚がした。この2人であるからこそ完成させられたのだろう
2012/05/16
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