鬼の跫音 (角川文庫 み 39-1)
鬼の跫音 (角川文庫 み 39-1) / 感想・レビュー
サム・ミイラ
鬼の跫音。何とも胸をざわつかすタイトルだ。人は誰もが心の内に闇を持つ。戻れない一線を越えた瞬間人は鬼と化す。もう人ではない。人の形をした鬼。それはヒタヒタと読む者に近づいてくる。すべてに共通するのはSという人物。だがそれぞれ違う人物。そして鴉。過去に復讐されるかのような主人公達。各短編は幻想的に耽美的にそして時に論理的に表情を変える。不思議に後味は悪くない。むしろ静かで穏やかで台風の目にいるような感覚。何よりこの完成度の高さ。聞けば処女作「背の眼」の後に書き始めた作品との事。やはり恐ろしい作家だ。
2016/04/17
しんごろ
ある作家さんの作品を読んだせいか、怖さやエグさは感じなかったです。イヤミスと言われてますが、もっとモヤモヤ、ザワザワするかと思いましたが、それほどでもなかったです。物語の設定、構成に秀逸で、どんな人でも心の裏には、悪意、狂気、鬼の一面があるのだと、どの短編にも感じられました。この作品が道尾秀介さんの初読みでよかったかな。また別の作品で道尾ワールドを堪能したいですね。でも、とりあえずツッコんでおこう。鴉、出すぎたろう!虫も出すぎだ!Sって誰だ!
2018/02/01
ノンケ女医長
恐怖感に満ち満ちた短編集。表紙のように、無機質で何の温もりも感じられない風景描写がはっきりとあって、登場人物たちが驚愕に包まれる体験をする。文章を読んでいるときも、読み終わったときも、著者の念がぐっと心に残り続け、本当に空恐ろしい気持ちになる。達磨の目が何を意味するか初めて知ったし、目を鏡と理解するほど追い詰められた惨劇は、実に惨たらしい。絵の中に込めた想いと、絵の中にしか込められなかった憎悪の感情が、凄まじい。そして何より、著者の底知れない胆力に、脱帽しかない。
2023/06/28
キングベルⅩ世
長くても50ページ程度の短編集6つなんだけど、どれもゾッっとするような話で怖い。かといって同じパターンは一切なくて、どれも違った表情の話。ハッピーエンドっぽいオチは全くなく、ラストにどんでん返しをさせられた挙句、どうとでも解釈が取れるように放り出されてしまう。それがまた良いんだよなぁ。「ケモノ」と「よいぎつね」と「悪意の顔」が特にお気に入り。「冬の鬼」も構成最高。読んだ後に日付順に読むとうわぁあぁってなるわ、こんなん書かれたら。ホント面白い。
2015/02/16
夢追人009
道尾秀介さん初の短編集で現実と幻想の世界が妖しく交錯する6編のホラーミステリ傑作集。本書に描かれる世界は暗く妖しい恐怖譚でほとんどが後味の悪いバッドエンドですから読者を選ぶ本だろうなとは思いますが、でも十分に一読の価値のある秀作揃いである事は間違いないと確信しますね。作中では昆虫や鴉が不吉な存在として効果的に使われていますし、私は初読みで詳しくは知りませんが著者の長編の題名には鳥や動物がよく出て来ますからきっと愛着がおありなのでしょうね。それから脇役で頻繁に登場するS氏は鈴木さんでしょうか気になりますね。
2019/05/05
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