静かな黄昏の国 (角川文庫)
静かな黄昏の国 (角川文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
篠田節子の作品は、概ね大ハズレはないが、それでも多少のバラつきは避けられない。ところが、8つの短篇から構成される本書は、いずれも粒揃いといってよいものばかり。近未来的なものが多いが、発想はSFのそれとは違うだろう。むしろ仮想現実に近いか。表題作は構想そのものはいたって普通のディストピア小説だが、寂寥感溢れる黄昏の表出が抜群に上手い。こういうところが篠田節子の本領かと思わせる。また、8篇のそれぞれが趣きと装いを異にしている点も短篇集として秀逸である。
2019/07/01
かんらんしゃ🎡
書き出しからいきなり持っていかれたぁ。人魚って子供の頃からなじみでノスタルジックであるし、大人になればなったでその煽情的な姿態に惹かれた。興味津々だ。同じ人間と魚でも上下逆なら楳図かずおの半魚人になってしまう。これじゃそそらない。そそらないどころか恐い。本書でもしだいにブラックな様に変容していく。人間に主体があると思う錯覚。欲望欲求の先にある毒。SF・音楽・終末医療など篠田氏のフィールドで不穏な話が拡げられる。
2020/01/08
harupon
短編8話。ゾクゾクが止まらない。おぞましい。印象に残ったのは「リトル・マーメード」「小羊」「ホワイトクリスマス」一番怖かったのは表題作の「静かな黄昏の国」。2011.3.11の東日本大震災、原発事故の起こる9年前の2002年刊行されている。1990年代に作者が参加した原発や核燃料サイクル施設の見学会等で感じた危機感を元に、書いたという。そろって70歳を過ぎてしまった主人公夫婦は、今では希少価値となった自然環境の下で、自然の食品を食べて“3年間”生きられる「リゾートピア・ムツ」を選択した。不気味な世界。怖。
2021/12/21
のぼる
篠田さん5冊目。 『不気味』『不穏』『気色悪い』など、『怖い』まではいかないが、それに近い感覚になる粒揃いの作品群。 今後もたまに読んでいきたい。
2021/04/03
ぷく
きりきりとした緊張感に力が入り、一話読み終えるたびに、詰めていた息をようやく吐く。 表面張力が弱まり、低温であるが高濃度の恐怖がじわじわと流れ出す。それを恐怖だと認識しているのが、もしかしたら、本のこちら側にいる私だけだったとしたら…そんなことがふと頭をよぎって、さらに恐ろしくなる。断トツで表題作。『子羊』『リトル・マーメード』を挙げる。
2020/01/28
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