星に降る雪 (角川文庫)
星に降る雪 (角川文庫) / 感想・レビュー
Shoji
『星に降る雪』と『修道院』の二篇を収録しています。どちらも大切な人の死と、死に対して象徴的とも言える男女間の営みが通底しています。とても静かに流れる物語ですが、なぜだか力強さを感じました。私、池澤夏樹さんの世界観が大好きです。
2021/07/14
翔亀
自然科学は、今や「科学」に比重を置き自然の操作を重視するようになったため気づくこともなくなったが、本来は「自然」に親しむためのものではなかったか。池澤さんを読むとそれに気づかされる。この中編二編は、自然科学の原初の力に支えられた小説。一編は天文学の技術者の恋愛模様、もう一編はギリシャという科学が生まれた地が舞台の歴史劇。男女の性愛を描きながら、それが結ばれないのは人間の業のためではなく、ヒトを超える「星からの声」や「神話」を、人間は求めるため。星とギリシャの自然描写に酔い、その中でのヒトの孤独を思う。
2016/04/14
piro
表題作と『修道院』の中編2編。前者は寒々しい岐阜の山間、後者は陽光煌めくクレタ島の小さな村。対照的な土地が舞台ですが、どちらも死の幻影を感じる、それでいて静謐な空気も漂う作品でした。暗闇の中で微かなチェレンコフ光を待ち続けるかの様な田村の生活。ひたすら独力で古い修道院の修復に没頭するミノス。どちらも死の上の危うい生を感じさせる。そして彼らと関わる亜矢子とアダ。何となくミステリアスな二人の女性が背負うものはそれぞれ異なるものの、男たちへの嫉妬心の様な思いが彼女たちの行動に繋がったのでは、と感じました。
2023/05/24
エドワード
標題作は、雪山で雪崩に遭い、片や親友、片や恋人を失った二人の再会と別れ。カミオカンデに務める技師・田村が、人の心の動きを物理学や天文学の比喩で語る姿がいかにも理科系で面白い。もう一編の「修道院」は、中島京子さんが解説で述べられているように、実に濃厚な愛の物語だ。クレタ島を訪れた日本人?が修道院跡で怪我をする。急遽運ばれた宿屋の女主人・エレニの語る、50年前の出来事。突然村を訪れ、修道院の修復を始めたミノス。彼の目的は何か?銘板の文字「ミルトスのために」の意味は?実はテーマが標題作に重なる構成が見事だ。
2023/10/26
眠る山猫屋
中島京子さんの解説に助けられながら。収録された二編は、共に大切な友人を失った主人公の物語。前半の『星に降る雪』では、再びチェレンコフ光について語られていたのが懐かしい。探したくなってしまう。クレタを舞台にした『修道院』は、序盤の作者とも思われる人物が遭遇した、とある過去に起きた悲劇と償い、そして更なる悲しき顛末をなぞる。二編とも大切な何かを欠損することによって、心のアンテナを鋭敏にし過ぎてしまう人間の弱さ/強さを平等に描いていたように思えた。
2016/12/30
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