インドクリスタル
インドクリスタル / 感想・レビュー
ヴェネツィア
篠田節子氏は、やはり現代屈指の物語作家だと思う。本書は実に構想5年。インド、水晶、先住民と並べると、なんだか三題噺のようだが、彼女はそこに見事な結晶世界を形作っていった。そして、その結晶の中を覗き込むと、そこは多彩さと混沌の織り成す万華鏡のような世界だ。何時、どんな立場で、どんな風に訪れるかで、全く違った相貌を見せるインド。私たち読者は藤岡とともに、インドに翻弄され続けることになる。そして、読み終わった時にはすっかりインドのカオスに魅了されている自分に気が付くのである。余韻を残す終わり方がまた素晴らしい。
2016/12/28
みも
僕の精神状態は、絵画や彫刻といった圧倒的な芸術作品を前に絶句している様相に近い。底知れぬ混淆を内包する深遠なるインドという巨象…そのカースト制度の非人道性を垣間見せ『ゴサインタン』のスピリチュアル性と『弥勒』のプリミティブな精神性の要素を織り込み、高性能水晶振動子ビジネスの綿密な描写による隙の無いリアリティが、企業小説としての凄みをも包含する。相反する冷厳と熱情が混在する丹念な心理描写と、胆力溢れるこれまでの渾身作を凌駕する精緻な構成。本著は篠田作品の一つの到達点ではなかろうか。多くの方に読んで頂きたい。
2020/10/19
absinthe
凄かった。まだ興奮冷めやらない。今年は冊数こそ少ないものの当たりが多い!性善説でも性悪説でも、紋切り型には割り切れないインドの社会。主人公と社会の対立の構図はこれでもかと胸に迫ってくる。人間の奥深さを思い知らされる。平和でうわべの綺麗事にならされた人間には見えなくなった真実がここにはあるのだろうか。山を登って息も絶え絶えの時こそその人の本性が解ると言う。それに近い悟りを得た気がする。オススメ本
2017/02/14
のっち♬
水晶デバイスメーカーの社長がインド辺境の地で採掘事業に乗り出す。話を牽引するのがインド人相手の丁々発止の駆け引き。この狡猾や強欲は激しい格差社会からくるもので、外国人との共同事業の難しさが無尽蔵の要求となって溢れ出てくる。事業内容もさることながら、当地の文化や因習、特に女性がおかれた非情な環境の仔細な説明に著者の熱意を感じる。虐待、人身売買、性労働など、「檻」に屈しないロサの強靭な精神力はまさにクリスタル。持ち込まれる富や価値観がかえって闇を深くする悪循環もわかりやすい。この長さでも弛緩がない構成も見事。
2021/10/07
takaC
インドで読み終えようと思って二章の途中から読み控えていたのに本を持って行き忘れて結局帰国してから残りを始末した。後半にちょっと書き急いだ感が滲み出ていのは残念だけど篠田さんらしい面白い作品だった。「騙されるな、本物を掴め」というキャッチフレーズは意味深。
2016/06/25
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