深泥丘奇談 (角川文庫)
深泥丘奇談 (角川文庫) / 感想・レビュー
ナルピーチ
四十代後半の頃の“作者”自身を主人公として、京都の裏側に潜む奇々怪々な世界と、そこに纏わる人物達によって繰り広げられるなんとも奇怪で型に囚われない9つの奇談話。得体の知れない独特の雰囲気は綾辻節が絶妙に効いており、ジワリジワリとその怪しげな魅力に引き寄せられていく。「サムザムシ」「開けるな」あたりは思わずクスっと笑わせてくれる要素もあり、不思議と恐怖の感情は湧いてこない。「ぎゅああぁぁぁぁ!」「ち、ちちち…ちちちち」あれっ?なんだろう。気のせいだろうか。何処からか怪しげな声が聞こえてきた─ような気がする。
2022/07/13
ちょろこ
深泥丘でまどろむ一冊。深泥丘を舞台に紡がれる世にも奇談な物語。深夜二時、深泥丘病院、一人きりの病室、聴こえる妙な音。ちちち…。このシチュエーションからあれよと引き摺り込まれる。夢のようでいて、でも現実っぽくて、そのぎりぎりの境界線を攻めてくる感じが好き。ウグイス色の眼帯、ウグイス色のフレーム眼鏡、石倉医師(一)、(二)、(三)だとか、もう誰が誰だかどうでも良いぐらい。何も考えず、何も追求せず、ただ奇談を楽しむ、それがまどろみを誘う。そのまどろみがいつしかどろどろの深い眠りへと変わる。ふぅ。たまらない体験。
2022/05/02
pino
私は眠るのが嫌になるほど悪夢を見る。その一つに大病院で迷子になるパターンがある。彷徨った挙げ句、病室の扉を次々に開けては、いけないものを見て恐怖におののくのである。それなのに闇の世界に自分の輪郭を半分持っていかれるような不思議話に惹かれるので困る。今夜は読み友さんのご紹介で深泥丘病院の扉を開けてしまった。ちちち…。ミステリ作家が体験する奇妙な出来事、奇妙な医師、看護師、風土色が強い言い伝え。読んでいると怪異の間に落ち込んでいい感じに何度も眠くなる。石倉医師なら悪夢に効く薬を処方してくれる…ような気がした。
2022/05/05
おかむー
ホラーというよりは怪奇小説といった趣の連作短編集。いやむしろ「この路地を抜ければそこには深泥丘病院が・・・」といったナレーションが聞こえる綾辻版トワイライトゾーンか。『よくできました』。主人公の作家が遭遇する未知の怪異はその姿や正体が明らかにされることはなく、だが主人公以外はその怪異をあたりまえのことのように語る。まるで肝心なところで目を覚ましてしまう居心地の悪い夢のように、物語は茫獏として実態を掴ませてくれないもどかしさがよい味といえる。九篇のうち『悪霊憑き』のみ中途半端にミステリ方向なのはちょっと残念
2014/07/24
sin
ふとした瞬間、日常に妖しい気配を感じとるーような気がする。ことは誰しもが少なくとも一度は経験されたことがあるのではないだろうか?気のせいにして放って置いてしまいがちなそのような瞬間を作家の感性で随筆的に奇談と云う形で積み重ねられ、実際に作者の住む京都の合わせ鏡のような街を舞台にして綴られた物語である。舞台の主人公は何やら深い処で、経験する様々な怪異と繋がっているようで、これからの展開が興味深い。あぁ、耳鳴りがする(実)。#ニコカド2020
2020/11/04
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