ザ・カルテル (下) (角川文庫)
ザ・カルテル (下) (角川文庫) / 感想・レビュー
W-G
凄まじい規模の暴虐に発展する下巻。正邪も善悪も全部混沌に呑み込まれた物語で、ケラーが下していく決断の数々が重くもあり、ふさわしい。上巻からすでに感じられたアダンの変容が、こういう終着点を迎えるとは。とにかく壮絶。マグダやイベッテ、マリソルやヒメナといった独立志向の女性キャラへの扱いは一概に容赦なく、そんな中で、唯一籠の鳥的存在だったエバが一際不気味に目立つ。エディの一歩引いた目線と、対比のようにパブロの物語を組み込んだのも大成功。何かで続編がある?というのを見た気がするが、気のせいだったか?
2018/04/30
遥かなる想い
下巻に入っても、殺戮の日々が続く。 メキシコを舞台にした麻薬抗争 、どこまでが 真実に基づくのか..誰が敵で 誰が味方か わからない状態で ひたすら殺人が続くこの物語.. 正直気分の良いものではないが、 現代のメキシコの惨状を 中米の今を描いているのだろうか。最後も 心落ち着かない幕切れだった。
2016/12/31
みも
作品の良し悪しを評するより先に立ち昇るのは、こんな凄いものを書いた著者への畏敬と畏怖。身内への愛情と裏腹の憎悪から生じる凄絶な復讐の連鎖。『犬の力』に見られたカルテル間の不文律さえ失われ、ジャーナリストも収賄か死かを迫られ、無辜の市民が問答無用で殺戮される暴虐が横行し、国家を巻き込んでの混沌の泥沼が広がる。僕はその凄惨さに神経を摩耗させ、疲弊し、麻痺させる。断片的に記される「点」のようなエピソードを線で繋ぐ手法。登場人物が多く全貌を把握するのは難しいが、その難義を補って余りある場面ごとのリアリティと衝撃。
2021/03/30
Tetchy
延々と続く麻薬闘争。1つの大きなカルテルが壊滅してもまた新たに生まれ、鎬を削り、利益と勢力を伸ばし続ける。これはメキシコの果てることのない暗黒神話だ。後半はもう殺戮の嵐だ。5人が10人、10人が15人、20人、30人、50人…。屍の山が累々とメキシコ各地で築かれる。メキシコを牛耳ろうとした麻薬カルテル達の戦国時代絵巻。前作『犬の力』にも劣らない、いやそれ以上の熱気とそして喪失感を持った続編。作者は前作以上の怒りを込めて筆をこの作品に叩きつけた。メキシコの暗黒史は今なお続いている。世界は実に哀しすぎる。
2016/11/23
藤月はな(灯れ松明の火)
暴走していくセータ隊への復讐のために手を組む仇敵達。しかし、倫を外れていくケラーに「復讐は止めるのよ」と諭すマリアナの言葉に胸が打たれる。彼女が両者にされた事は復讐に足る。しかし、当事者であるからこそ、被害者でもある彼女のその言葉は安全地帯にいる人が同じ言葉を吐いたとしても持ち得ない重みがある。そして拷問され、遺体を辱められたパブロが遺した記事。それはそのような世界にした者達へのメキシコの庶民による怒りの声である。同時に上巻に捧げられたメキシコ麻薬戦争で殺され、「消えた」ジャーナリスト達への黙祷でもある。
2017/07/28
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