河童・戯作三昧 (角川文庫 あ 2-8)
河童・戯作三昧 (角川文庫 あ 2-8) / 感想・レビュー
優希
10年間の軌跡が詰まっているのですね。難しくて暗い作品が多い印象を受けました。死後発表された『河童』は風刺であり自嘲的景色でもあるのが自らを皮肉っていると言えるでしょう。芥川は常に自らを皮肉の象徴にしていたのかもしれません。
2023/03/20
yumiha
読んでいなかった『河童』。河童社会も人間社会も悩ましいのは同じ?「お前はこの世界へ生れてくるかどうかよく考えて返事しろ」という出産の場面は、『夏物語』(川上未映子)の先行場面か?「莫迦な嫉妬深い卑猥な図々しいうぬ惚れきった残酷な虫のいい動物」こそ人間で、同じものが自分も持ち合わせていることに芥川も苦悩したことだらふ。『大導寺信輔の半生』には、12歳の信輔が初めて帝国図書館へ訪れたおののきが書かれていて『夢みる帝国図書館』(中野京子)を思い出した。『戯作三昧』では馬琴を通して物書きとしての苦悩を読み取った。
2020/04/24
朱音
私にとって芥川とは「学校で読まされて」「感想文書かされる」ものだった。「教科書に載るような人」なので強く正しいのに違いないと。それがこの「河童」ではどうだ。生まれてきたくはないと言い、言葉によって病んで死んでしまうほど繊細でか弱いではないか。河童の世界にいても自らの世界へ戻っても結局居所は無く、河童の世界へ「帰りたい」と思う。そこまで病んでいる精神を、芥川はなぜ描いたのか。それは彼もまた病んでいたからであり生きることに絶望していたからかもしれない。
2009/07/24
矢代
なんと言うか、初読のときは余り何も感じなかったのですが「或日の大石蔵之助」「戯作三昧」「開化の殺人」「開化の良人」「大導寺信輔の半生」「玄鶴山房」「蜃気楼」「河童」この編集が、まァ、巧みですよね。芥川龍之介自身を読んでるような錯覚が起こるのは私の思い違いかとも思いましたが解説読んで当たらずも遠からずで、流れで読むと「河童」苦痛です。蔵之助の虚しさと、馬琴の情熱と蜃気楼の曖昧さと河童の滑稽さ。しかし「戯作三昧」はよい。最後の孫との会話が凄くいい。身につまされる感じです。
2015/04/01
閲覧室
精神病院入院中の男がかつて迷込んだという河童集落での生活を回想する「河童」他。母乳と富に恵まれなかった少年は終始くどい程の怨み節、看護婦は家庭崩壊を愉しむべく小さな一手間を惜しまず、自己犠牲精神を掲げての殺人は大敗、愛ある結婚は欺瞞を暴かれ破綻した。全体的に論理的且つ暗い。人間の暗部を殊更皮肉めいた目で綴る遣り方は正に芥川文学。表題作に関しては河童語やら独特な河童的思想など細かい部分にまで拘って構築された世界に可笑しみを感じつつその偏執性や冷笑加減に鳥肌。日常と地続きな狂気を思い物哀しくもなった。
2011/05/26
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