二重生活 (角川文庫)
二重生活 (角川文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ボードリヤールの引用から始まり、ソフィ・カルへと教養度はとっても高い。ただ、ソフィ・カルのそれはあくまでも芸術であり、その限りにおいて非日常の領域に属するのだが、珠の行動は日常の延長である点において決定的に違っている。すなわち本書はボードリヤールを踏まえつつ、それを通俗化する試みである。それにしても、こんな風に小説に仕立て上げるのは実に上手い。時に小池真理子60歳なのだが、まだまだ感覚的にも若々しくスタイリッシュな健在ぶりを誇示している。エンディングは物足りなさを感じないでもないが、これしかないようだ。
2020/10/07
🐾Yoko Omoto🐾
赤の他人を尾行し素行を観察することで思わぬ秘密を盗み見る、そんな行為に魅せられた主人公。余計な感情移入はせず知り得た事実のみを客観的に記録するに留めるはずが、想定外の展開の連続に自身の生活が危うく翻弄されていく。一見エキセントリックにも思えるが、他人の秘密を知ることは背徳的であると同時に愉悦を覚える行為には違いない。読書することも然り、様々な人の人生を追体験できるという点で快楽の種類は似ているのかもしれない。降り積もる猜疑心にサスペンスフルな展開、思わず昔の自分と重ねてしまう臨場感。小池さん、流石です。
2016/05/14
M
ゼミで識った「文学的・哲学的尾行」を実行する院生、珠。それ自体意味のない尾行、ねぇ。哲学ってその大義名分を盾に本来在るべき理屈を煙に巻くというか、往々にして日常生活者をバカにしてるよね。…そこはこの作品の論点じゃなく、所詮は小説なのだけど。つい個人的体験が脳裏をよぎり、被尾行者を襲う恐怖感の方に気を取られてしまった。長谷川博己の演じる石坂(の性的魅力)が観たい。以下引用▼結局、壊す必要のない自分を壊してしまうのは、妄想なのだ。▼本当に厭世的な人間ほど、そういう世間並みの人生を送りたがるもんじゃないか?
2016/08/24
ケンイチミズバ
面白い小説を読んだ時の満足感に浸れた。好奇心旺盛で感受性が高く、外国に住む父親との疎遠な関係があったり、人生を揺るがすような大人の男との不倫も経験した珠。今は同棲する彼の浮気を妄想しながら、タイプの大学教授には性的な妄想も抱く。とある仏文学の講義に感化され彼女は他人を尾行するスリルと人の秘密を知る快感を覚えてしまう。同棲相手が結婚を決断し喜びと安心を得たものの本心は平凡に耐えらず倦怠感すら覚え尾行を再開するラスト。なんじゃあこりゃあ?何て面白い女性なの、教授に唆されたという考えがカワイイとすら思えます。
2016/07/25
あすなろ
尾行は尾行でも、文学的・哲学的尾行とは何か?ゼミで唆しにも近い衝撃を受けた女性が尾行を開始してしまう。でもやはり尾行は尾行で、やがて人の秘密を知り、それだけの澄み切った水の筈なのにどす黒いインクが流し込まれてしまった私。個人的に蒸し暑く寝苦しい夜に読む気になる小池氏作品だが、本作もそうであった。描かれていた季節は冬だが(笑)。人の秘密は蜜の味、というベタなコメントにて感想を了とする。
2016/08/12
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