光降る丘 (角川文庫)
光降る丘 (角川文庫) / 感想・レビュー
しいたけ
宮城県栗原市耕英地区がモデル。シベリア抑留から帰国し、この山に入り開拓した苦労や仲間との絆。そして震災により孤立したこの地域で、開拓一世から三世が協力し思い合い、難局に立ち向かうさま。これが交互に語られることで、この土地に対する思い、諦められるはずもないこの場所で生きることの重みが胸に迫ってくる。雑誌で連載中、半分ほどのところで東日本大震災が起こったとのこと。著者の筆が止まり「小説に意味があるのか」と悩んだ末、焦点を当てる人たちを変更して書き上げたそうだ。その土地で生きた人の思いを、確かに受けとった。
2016/06/05
とりあえず…
東北の森を描かせたら、この人の右に出る者はいない。多くの生命を育み、慈しんでくれる森。だが、自然は優しいだけではない。一度牙を剥けば人など敵うはずもない。そんな厳しい現実があっても、やはり森は何処までも美しい。かたや、戦争は如何に。そこに美しさなど微塵もない。過去と現在の二重構造であることで、それが浮き彫りに。大地震という日本人にとって切り離せない自然災害にいつ襲われるやもしれない中、それでも懸命に前を向く逞しさを先人たちに学ばねばなりませんね。姉妹本『希望の海』も読もうと思います。
2016/10/23
James Hayashi
多くの人が忘れてしまっているが、東日本大震災の前に岩手宮城内陸地震(08年)が起きている。地震で多大な犠牲を出した村落が、山を切り開き、いかに開拓し、いかに生計を立ててきたか、フィクションながら深く感慨深いものがある。ブナの木を切り倒し、家を建て、ナメコ、放牧、苺などを育てるに至るが、村に入るまでは満州から逃げ延びてきた男。当地は紅葉で有名な栗駒山、イワナ料理など観光地としてなんとかなるであろうが、特色のない山村など廃れていくのが目に見える。防ぎ用のない地震など日本の将来は不安だ。
2020/06/25
to boy
戦後開拓された東北の山奥の村の物語がとてもすばらしいです。開拓一世のはなしと三世の現代の話が交互に語られていきますが、その底流にあるのは過酷な環境におかれてもなお希望を持ち続ける人間のすばらしさだと感じました。特に開拓一世の耕一の話はすばらしいです。一人だった主人公に妻が寄り添い、家族が生まれ賑やかになっていく様子を涙を流しながら読みました。再読したい一冊です。
2016/08/22
Sakie
命からがら戦争を生き延びた男たちは日本に帰還し、自らの食い扶持を稼ぐために山間の原生林を開拓する。時を経てその地は直下地震に見舞われた…。恥ずかしながら、この物語が2008年の地震等事実に基づいて書かれていることに、読み終えるまで思い至らなかった。物語の中で開拓民となった男たちは、全力で挑まねば太刀打ちできない状況の中で陽気だ。冗談を言い合い、知恵を捻り、酒を呑んで明日に立ち向かう。自らの力でつくりあげた故郷を、そこで生きていきたいと子や孫に言ってもらえる幸せは、身に沁みて溢れるようなものと想像しました。
2021/03/14
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