眠りの庭 (角川文庫)
眠りの庭 (角川文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
連続した2つの中編を重ねて長編化したもの。この人も作品に随分ムラのあるタイプの作家である。今回は私からすれば、残念ながら作為が目立ち過ぎて通俗化を招いた典型例に見える。主人公の小波の背後にサロメを想起させたいようだが、ファンム・ファタルたるサロメからは限りなく遠い。また、他の登場人物たちにしても後半の「イヌガン」の語り手の「僕」(単に目撃者に過ぎない)はともかく、真壁教授にしても萩原にしても無理があり過ぎる。乱歩ばりのミステリーを構想したのかもしれないが、結果的にはアナクロニズムを招き寄せただけである。
2021/05/10
ミカママ
あああぁ、タイトルはそういうことだったのか。読み終わってもまだわからなくて、、、みなさんのレビューを拝見して初めてストンと。そんなミステリアスな内容を期待してなかったんだもの。最初から最後まで、小波のファタールな魅力に翻弄された作品。作中の湿った空気感がビシバシ伝わるような。
2018/05/14
さてさて
二つの短編が『蔦』のように絡み合う連作短編の形式をとるこの作品。”過去を背負った女と、囚われる男たち。2つの物語が繋がるとき隠された真実が浮かび上がる”と内容紹介に謳われたこの作品。そこには〈序章〉の主が語る独白調の語りの先に展開するまさかの闇の物語が隠されていました。千早さんの圧巻の筆の描写力でぐいぐい読ませるこの作品。さまざまな可能性を予感させる不穏な結末を読み終えた読者を待つ「眠りの庭」という書名に隠されたまさかの物語。『人の心は無理に暴いてはいけないのよ』という言葉の説得力を強く感じた絶品でした。
2022/05/02
mariya926
なかなかオドオドした感じで、合わないと思いつつ最後まで読みました。赤の血と穴の記憶を持つ男女が出会って惹かれ始めますが···正直、最初から主人公の男性が苦手で、だから合わないと感じたのかもしれませんが。気になる作家さんですが、あまりホラー系は好きではありません。人はわかり合えない。全てを知ることはできない。それでいい。毎日、そこから始めればいい。日々、相手の鼓動に耳を澄まして、繋いだ手を握りなおすのだ。たとえどんな真実が突きつけられても、それを踏まえて歩き続けるしかない。この事が書きたかったのかな?
2024/01/02
まこみん
《ファム・ファタール(運命の女)》男を狂わせ破滅へと導く悪女。ギュスターヴ・モローの描いたサロメ像は宙に浮かんだヨハネの首を神々しくも真っ直ぐに指差す。運命に縛られ自我が欠落した女。「アカイツタ」名門女子高の美術臨時教師の萩原は、自らの過去と卒業生の小波の父親である母校の教授の闇に立ち向かって行くが…。「イヌガン」会社員の耀は、同棲する澪の嘘迄も理解しようと同じ後ろめたさを持とうとする。この2つの物語がひとつになって蔦の様に絡まる。ラストも時によって違う印象になりそう。癖になりそうな千早さん。
2019/07/13
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