天衣無縫 (角川文庫)
天衣無縫 (角川文庫) / 感想・レビュー
優希
無頼派作家であるが故に描ける世界があるように思いました。庶民の機微を俗世に絡めている雰囲気は、そこに生きる人々の人生そのものを伺わせます。そして全体的に女性が強い気がしました。逆に男性がちょっと弱い感じがするので、もっとしっかりしろよ、と言いたくなりますが。古き良き大阪の空気が伝わってくるのもいいですね。第10回芥川賞候補作家であり、後に織田作之助賞が作られたことからも文壇の寵児という印象を受けました。面白かったです。
2017/01/17
青蓮
作品に登場する女性達の強さ、逞しさは如何にも商人らしい気質だ。肝が据わっていて頼もしい。それとは反対に男達の情けなさよ。でも何故か不思議と憎めず、愛嬌がある。大阪には行ったことがないけれど、陽気でからりとした気風が伝わってくるようだ。町の様子も細かに描写されていて実際に行って知っていたらもっと楽しめたのかも。織田作の作品にはあまり悲壮感がなく、あるのは温かな人情だ。深刻で悲惨なことでもユーモアに変えてしまう織田作の手腕は見事。「女の橋」「船場の娘」「大阪の女」の連作が良い。
2019/08/04
aquamarine
細やかに過去の大阪という地を連想させる文章が好きだ。その中をまるで見えるように生き生きを人物が動く。惚れたら最後、それがどんなに甲斐性なしであろうが、無情であろうが、男のために身を粉にするたくましい女たち。なぜ別れない、なぜ愛想をつかさない。そう思いながらも尽くす女の気持ちがわかる自分に苦笑する。貧乏の連鎖、どうにもならない家柄と血。それでも諦めなければ生きていける、食べていける。著者の描く女は強い。コロナ禍という今の時期も相まって彼女らのパワーが眩しい。途中連作になっていた雪子の話が一番好き。
2020/08/23
優希
面白かったです。無頼派作家であるということから描ける世界観があるのだと思いました。庶民の機微を俗世に絡ませている空気感は、そこに生きる人たちそのものなのでしょう。女性が強く、男性が気弱いのですが、何故か不思議と馴染んでしまうんですよね。古き良き大阪の空気が感じられるからでしょうか。第10回芥川賞候補作であり、後々織田作之助賞が成立したのも分断の寵児という印象を受けました。
2019/08/16
里愛乍
『天衣無縫』は戦時下において発表された小説ではあるが、その風味はかなり薄い。内容としては特に事件もなく、とある夫婦の見合いから新婚生活までを三人称でなく女性一人称独白体で語られている。そのツッコミぶりが清正の天然ぶりを一層際立たせ、本来なら読み手は語り手である彼女に感情移入しようものだが、両親の態度から察するに政子の方も大概なようで、この辺りは夫婦善哉を彷彿させる。ストーリーと語り口の面白さを二重に味わえる、この技巧を露骨に見せずまさに清正同様〈天衣無縫〉な小説であった。
2023/10/01
感想・レビューをもっと見る