水やりはいつも深夜だけど (角川文庫)
水やりはいつも深夜だけど (角川文庫) / 感想・レビュー
ミカママ
窪さんの作品を読むと、いつだって紙ヤスリで心臓をギリギリこすられるような気持ちにさせられる。主人公たちはどれもみな、日常生活の中で声にならない叫び声を上げているのだけれど、読者はたいてい過去に、似たような体験をしているのではないかしら。だからこそ容易に感情移入してしまう。辛口を言うと、どの物語でも主人公たちは善意に守られており、ラストはあっけなく問題解決となる。実際はなかなかこうならないんだけどなぁ。きっとこれは悩める現代人への、窪さんからの応援歌なのだろう。
2018/08/03
さてさて
同じ街、同じ幼稚園に子どもが通う家庭を舞台に、そこに暮らす主人公達の過去と今の思いを絶妙に重ね合わせていくこの作品。そこには、『これがほんとうに、おれが望んだ家族のカタチなんだろうか』と、自分が思い描く『家族』の『カタチ』にはならず、自身の忘れたい記憶と今が重なっていくのを意識せざるをえなくなる主人公達の心の葛藤が描かれていました。それぞれに重量級の内容が描かれるにも関わらず、極めて読後感の良い結末に導かれるこの作品。書名に感じる意味深さの中に、主人公達が胸に抱き続ける感情の有り様を強く感じた作品でした。
2022/07/25
馨
初読み作家さんでした。思い出の植物を絡めた家族にまつわる短編集。老若男女、色々な世代の主人公の気持ちがここまでわかるのは凄いと思います。家族なんて血が繋がっていなくてもそうあろうと決めて作り上げていける、また、子供から見れば家族は自分で選ぶことが出来ないから今の家族の形に自分がはまるようにしてゆけばいいという言葉に納得しました。どの話も身近にありそうなものばかりで作者が言うように結婚が逆に嫌になるかもしれないものもありましたが現実的で、むしろ今同じ状況にある人が読めば前を向いていけそうにも思います。
2018/01/08
エドワード
家族って、みな違うよ。同じ家族はふたつと無いのに、他の家族の姿が気になる。これはどうしようもない日本人の性だ。どうやら同じ幼稚園が舞台になっているらしい、小さい子どもを抱えた若い親たち。子どもを介する人間関係のめんどくささが実にリアルだ。服装、お弁当、おもちゃ、会話の内容。なんでそこまで気にする必要があるんだ?あるんだなあ、これが。「ここは都心なのに、まるで田舎みたいだ。」オトナ社会がムラ社会なんだから、スルッと見方を変えて立ち向かう主人公たちがいっそ潔い。物言わぬ植物たちは、家庭の守護神なのかもね。
2017/08/05
hit4papa
花の名にちなんだタイトルがついた短編集です。いつもの過激さはすっかりなりをひそめておりますね。家族に起きる様々なさざなみを描いていて、総じてじわ〜んとくる良い話になっています。しっくりいかなくなってしまった夫婦を描く「サボテンの咆哮」は、泣く5歩手前まで到達です。他、よろめく夫「砂のないテラリウム」等、掛け違えたボタンはなかなか元には戻せない。家族ってのはメンテナンス必要なんだよなぁと、つくづく思ってしまいます。こういう窪美澄作品も良いのですが、衝撃的ともいえる鮮烈さがないため記憶に残り難くはありますか。
2018/05/03
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