ザ・スパイ (角川文庫)
ザ・スパイ (角川文庫) / 感想・レビュー
ケイ
マタ・ハリをどう捉えるか。コエーリョの創るマタ・ハリは、虚栄から身を滅ぼした。思い上がり、贅沢、不相応、大言壮語、そんな彼女の性質が、彼女の運命を彼女のコントロールできないところに持っていく。しかし、本人は意外と満足しているかもしれない。皆の記憶に残るのは、むしろグレタ・ガルボの美しい姿。コエーリョの様に彼女の真の姿を切り取って見ようとしなければ、皆が思い描くのは、美しいままの伝説の女スパイ。コエーリョは、彼女に寄り添ったのか、もしくは、暴き出すために利用したのか...。
2018/08/23
どんぐり
マタ・ハリといえば、女スパイの代名詞。そのマタ・ハリを題材にした小説。第一次世界大戦中にスパイ容疑でフランス軍に捕らえられ、有罪判決を受けて銃殺刑(享年41歳)。パリを中心に活躍したオランダのダンサー(ストリッパー)、オランダ領東インド(インドネシア)で結婚・離婚、権力者たちの愛人ともいわれ、第一次大戦の情報戦の中でスケープゴートにされた。謎多き女性だが、この小説も史実を反映したもの。グレダ・ガルボ主演で映画にもなっているが、見る機会がない。
2024/09/17
キジネコ
破壊と再生の神シヴァ。ヒンドゥーの神を自己に重ね合わせ、嘘と肉体を使って時勢を回遊した女性の物語。彼女の存在は異物であった。拡散する感染症の様に時代と社交界に浸潤するアイコンは、不都合で淫靡な事実となった。フランスとドイツの間で暗躍する二重スパイ?その嫌疑を満たす要件は、少なくとも見受けられなかった。戦時下の国家保安法、それが彼女を銃殺隊の前に立たせた規範であり、組織の中に巡らされた二重三重の裏切りのトラップの贄、彼女は少なくとも、この容疑について無罪推定の刑死者だった。複雑なパズルの細やかなワンピース。
2024/08/07
たぬ
☆4 世界的ベストセラーの『アルケミスト』が今一つだったからコエーリョには抵抗があったのだけど、これは薄いし大丈夫かなと。マタ・ハリがオランダ人ということは初めて知ったし彼女の人生もとても興味深く読むことができた。これを読む限りだと処刑されるほどの罪を犯したとはとても思えないんだよなあ。
2021/10/09
マリリン
父や母を責める気持ちはない。私を生み育てる場所を間違えたと思う。二重スパイという罪で銃殺刑にされたマタ・ハリ。約一世紀前に実在していた人物とは知らなかったが、数奇で波乱な人生の中、母が亡くなる前に渡したヒマワリの種に込めた思いは伝わらなかったのか。 愛するという事は他人を信じる事。 自分の存在を否定してはいけない 運命とともに明るく歩み 花はその盛りに...後に種を残し...神の仕事を次に託す。ふと一人娘を想ったマタ・ハリの脳裏にこの言葉は蘇ったのか。刑を受ける姿からはすべての想念が消えた凛々しさを見た。
2019/04/08
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