生まれる森 (角川文庫)
生まれる森 (角川文庫) / 感想・レビュー
三代目 びあだいまおう
『恋に悩み迷う少女時代の終わりを瑞々しい感性で描く名作』と背表紙にあった。一人の女性が親世代の男性と恋に落ち、恋を失う。心に開いた穴を忘れようとすればするほど引っ掛かる思い出の日々、時間、シーン。自身の強烈な痛み(過去)は、彼を忘れたくても忘れられない自分への決別の誘い水なのか。ちょっと世を外れた経験を持つ親友の、さりげなくて心地よい寄り添い、そしてその親友の家族が放つ真の優しさに癒され徐々に自分を取り戻す主人公。瑞々しくも美しい筆致は、まさに島本さんらしさを感じる。女の子同士の柔強な友情が美しい‼️🙇
2020/02/26
さてさて
主人公の『わたし』が友人のアパートでひとり暮らしを体験する中、友人のキクちゃん、兄の雪生など様々な人との関わりを通じて心がほぐされていく、深い森の中から外の世界への道が見えてくるのを感じさせるこの作品。大学生の島本さんだからこそ描けたその瑞々しい感性の世界に「生まれる森」という絶妙な書名の意味を噛み締めることになるその結末。『君はたぶん、自分で思っているよりも、まわりが思っているよりも、ずっと危ういんだと思う』。危うさを感じさせる『わたし』の心に一筋の光射す結末に、今に至る島本さんの原点を見た作品でした。
2022/06/22
nico🐬波待ち中
島本さんが大学在学中に執筆された作品。高校3年から大学1年にわたる、真っ直ぐすぎる想い。気持ちを巧くコントロールできず空回りして、暗くて深い森の中をさ迷い続け抜け出すこともできず途方に暮れてしまう。苦しいくせに平気なふりをして、自分から助けを求めることもできずもがき続ける。「昨日よりは今日、今日よりは明日、日々、野田ちゃんは成長して生きてる」こんな風に言ってくれる友達がいる限り大丈夫。いずれ森を抜け出せると確信した。報われない恋心は、時に少女に新たな絆をもたらす。とても颯爽とした気持ちになれる物語だった。
2019/02/23
aoringo
年上の男性との失恋により喪失感に苛まれる主人公。友人家族と共に過ごすことで少しずつ再生されていく。森の木立みたいに、朽ちていく木もあれば芽吹く草もある。透明感溢れる文章と作者の感性がとても好き。森林浴したあとのような気持ちの良さが残りました。ただ雪生との関係の変化をもっと丁寧に描かれていたらなぁとも思いました。島本さん、大学生のときの作品だそうでその才能に驚きです。
2020/03/12
鍵ちゃん
あの人に出会ってから深い森に落とされたようになり、すべてがガラス越しに眺めている風景のようだ。失恋で心に深い傷を負った私。夏休みの間だけ大学の友人から部屋を借りて一人暮らしを始めるが、心の穴は埋まらない。そんな時に再会した高校時代の同級生キクちゃんと、彼女の父、兄弟と触れ合いながら、私の心は次第に癒やされていく。なんだかなぼやっとしたようで爽やかな恋愛小説です。そしてキクちゃんの家族の優しさが暖かく、身にしみる。
2023/11/20
感想・レビューをもっと見る