霊長類 南へ (角川文庫)
霊長類 南へ (角川文庫) / 感想・レビュー
HANA
筒井康隆による人類絶滅もの。中国軍内部の殴り合いで誤発射された核から始まる核戦争、そんな中で起きるドタバタ騒動が中心。主人公目線からと各地で起きる騒動の二つの視点から物語は推移するが、圧倒的に面白いのは後者。静謐に最後を迎えるなどという他の絶滅小説に見られるような諦念は欠片も見られず、どの人もどの人も見苦しく他人を押しのけ最後まで生きあがこうとしている。それでもそれが不快でないのは著者の人類観が感じられるからか。でも飛行機のシーンとか南極観測船のシーンとかは往年の著者を彷彿させ、ちょっと嬉しくなるなあ。
2023/08/29
塩崎ツトム
映画「オッペンハイマー」の最後、オッペンハイマーとアインシュタインの会話を思い出す。「きみは地球大気が発火するかもしれないと言っていたが……」「予想はあたったよ」。キューバ危機の後、米ソ双方の首脳の間にはホットラインが設けられ、インターネット通信網は整備されて世界中の人間とのホットラインが開設されたが、逆にそれは、本書の最初、しょうもない喧嘩の種というか、導火線の本数を徒に増やしただけなんじゃないか?
2024/09/12
かっぱ
中国のICBMの基地でのドタバタからはじまる戦争は、大国間の相互核攻撃に発展する。冷戦下の破滅戦争なのに、そこに感じられるのは、色濃い戦争の影、それも第二次世界大戦の影だ。 これがかかれた69年は冷戦の終わりの時期で、第三次世界大戦による世界の滅亡は、避けたいけどおそらくは避けられない未来のように思われていた。そんな時代にかかれたこの小説を読むと、スラップスティック・コメディの作家とおもわれていた筒井康隆が、小松左京と同じように戦後焼け跡派だった、という事を改めて考えさせられる。
2024/10/21
zeroset
なんと山陰・今井書店限定で復刊。自分が初めて読んだのは講談社文庫版だった。30数年ぶりの再読。
2018/07/29
彗星讃歌
バカな人類がバカな理由でバカな戦争を始める。世界中が核の炎で消し炭になる中、パニックになった人々は我先に逃げようとし、そして尽く失敗する。そんな中、主人公は常に理性的に行動し、結果的に最も幸せな結末を迎える。極限状態を媒介にして人類への失望や人間が持つ動物性の開示、そしてそれらの中に一際輝く人間性、そして人類への愛が伝わってくる。今の時代では、この本は万人受けはしないだろうし批判も多いだろう。しかし核戦争の危機が迫り、人類への信頼が失われつつある今の時代だからこそ読まれるべき1冊である。
2023/02/04
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