颶風の王 (角川文庫)
颶風の王 (角川文庫) / 感想・レビュー
しんごろ
第一章が、ちょっと個人的にグロいというか描写がきつかったけど、それを超えたら一気読み。でも第一章が悪いわけではない。もちろん良かった。厳しい自然、広大な大地、強く激しい風、何かを包み込むような波、極限の寒さ、そんな景色が目に浮かぶ。馬と馬によって生かされた6世代にわたる馬屋だったヒトとの濃厚で壮大な物語。馬もヒトも“及ばぬもの”との戦いであったのではないか。花島で生き残った一頭の馬、馬屋の末裔の娘、その邂逅は気高く気品を感じて美しく思えた。それは王と呼んで間違いない。
2021/11/27
しいたけ
『70時間全文試し読みフェア』にて。3つの時代の、人と馬の必死な生。共通するのは強風に立つ、生きとし生きるものの凛とした姿。人の「オヨバヌトコロ」への畏怖。代が変わると、文が纏う色もガラッと変わる。ひとつめは白、ふたつめは濃緑、みっつめは碧に包まれて読んだ。それぞれに心を掻き立てる風が吹く。素晴らしかった。手元に置かねばなるまい。
2018/12/02
ふじさん
河﨑秋子の長編デビュー作。お腹に子どもを宿したまま駆け落ちしたミネは、単身馬のアオで逃亡し、雪崩に合いながらも馬を食らって生き延び、無事の捨造を生む。この経緯は、まさに壮絶なドラマだ。根室に住み着いた捨造とその家族は、馬と共に生きる選ぶが、台風で馬を育てる生活を諦めることになる。救うことが出来なかった馬に心を残し続ける祖母の気持ちを知り、孫のひかりは、残された一頭の馬に合うために、花島を訪れる。そこで逞しく生きる馬の姿を見て、祖母の馬に対する強い思いに改めて気づく。世代を超えた馬とひとの交流を描いた力作。
2022/11/03
のぶ
北海道の広大さと、土の匂いが伝わって来る作品だった。東北と北海道を舞台に、馬と関わる数奇な運命を持つ家族の、明治から平成まで6世代の歩みを描いた物語。全体を通しての主人公は馬なのだが、寄り添う人間のドラマとして楽しむ事ができた。特に前半部の、許されぬ男性との子供を身籠った妊婦ミネが雪崩に巻き込まれ、一緒にいた馬のアオを食べ、命をつなぎ、春に臨月のミネが救出されたシーンは圧巻。著者の川﨑さんは北海道在住で、羊飼いをしながら執筆活動をしているようだが、そんな環境で住んでいる人にしか書けない本だと思った。
2019/12/21
タイ子
いい本を読んだなぁ。颶風=強く激しい風。馬と人、家族の絆が120余年に渡り連綿と綴られる壮大な物語。著者の作品は初読みですが、表現力が上手くて読みながらドラマを見ているような感じ。それゆえミネの雪山遭難の場面はリアル感満載。命を守ることは命を頂くこと、そして次の世代に引き継ぎ、また次の世代が命をつなぐ。最終章で6世代目のひかりが祖母のために島に渡り野生馬の様子を見て「私のどこが哀しいのだ」と馬に言われた気がするシーンは泣けましたね。厳しい環境の中に生きてこそ人も馬も強くなれる。読み友さん、ありがとう!
2019/06/30
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