あひる (角川文庫)
あひる (角川文庫) / 感想・レビュー
ミカママ
なんだか不思議にぞわぞわさせられる、初読み作家さんによる「家族小説」。あひるは何かのメタファーなのか。新興宗教(おそらく)にハマってる母親、元ヤンで家族に暴力を振るったりもしたけれど、今は結婚して別居する弟、資格試験に通らず、いつまでも実家暮らしの「わたし」と、ここでも影の薄い父親。どこにでもありそうで、やっぱり歪(ひず)んでいる家族。読後感は明るくない、、、がクセになりそうな作家さんである。
2019/11/09
夢追人009
私が読んだ今村夏子さんの2冊目の本です。どの作品に出て来る子供達も良い子悪い子のどちらも皆生き生きして元気ですね。「あひる」は解説に書かれている様にあひる(人間)がよく似ていて取り換えの効く存在という悲壮な見方も出来るかも知れないし「おばあちゃんの家」の怪しい婆さんは相当に危なく見えるし「むらさきのスカートの女」のストーカー女は異常で不気味に思えるかも知れませんが、著者はどの物語も一応のハッピーエンドで平和に幕を閉じていますし、甘く単純ですが物事は見方次第で良くも悪くも映ると言いたいのだとも思うのですね。
2019/09/22
zero1
今村は何を描き、独自の世界観をどう解釈する?児童文学でホラーで純文学?自分の存在は誰かの代役?家にアヒルが来た。【のりたま】と名前を付け元鶏小屋で飼う。近所の子どもたちの人気者になり毎日多くの子が来る。やがて体調不良に・・・誕生日のカレーは【朝顔に釣瓶とられてもらひ水】の世界。語り手は異世界の住人?短く平易な文章だが、読めば深さと怖さが分かる。「おばあちゃんの家」「森の兄妹」を併録。この両作品は繋がっている。今村の作品世界は、どこを見ても実験的。最先端の小説はこうなのか。155回芥川賞候補(後述)。
2019/11/01
やすらぎ
満たされたい。人は悲しみの隙間を埋めてくれるものを無意識に手探り、本来求めた形ではなくても今すぐに埋めてくれるものを求む。あひるがやってくる。皆が喜ぶ。またやってくる。笑顔になる。あんなに可愛かったのに。私の違和感に彼らは本当に気付いていないのか。事実から目を背ければ心は落ち着くから。ねえ。偽りの平穏はその場限りだけど、それでもいいの。ねえねえ。大切な思い出も目の前の充足が覆い被されば忘れられてしまう。時は残酷にも刻み振り返り立ち止まることを認めてくれない。のりたまに逢いたい。おばあちゃんは何処。私は誰。
2023/06/06
mae.dat
平穏と不穏で組み上がった寄木細工の如し。表題作から始まる短篇3作。どの作品も、ハッキリとしたホラーと言う訳では無いのですけど、日常の中に仄かに漂う常軌を逸する人々の吐息や息遣いが聴こえて来る様な気がしてね。独特の雰囲気に包まれて行く様です。そう言う物が、びっしりと隙間無く組み上がって、独自の文様を描き出している様に感じますね。薄くて余白も多いので、隙間時間を埋めるのに丁度良いかも。それにしても、夏子さんは何処から来て、我々を何処に連れて行こうとしているのか。大変気になる作家さんです。
2023/07/13
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