遠い唇 (角川文庫)
遠い唇 (角川文庫) / 感想・レビュー
やすらぎ
何度も読み返したくなる爽快感。染みた葉書から漂ってくるコーヒーの薫り。今この場では直接言えなかったことも、数多の夜を越えて記された謎から見えてくる。同じ空の下で私たちは幾度も夢を追いかけては見失い、諦めかけては微かな希望を見つける。星の光も届かないほどに遠くなった夜空に浮かぶ無邪気な微笑み。難解な絡みほど解きたくなるものだが、一度でも濡れればより固く結ばれる。力一杯に解して仮に真実を知ることが出来たからといって、心までを平穏に向かわすとは限らない。そこに残るのは結局、複雑に絡み合った感情の余韻だけである。
2023/06/28
へくとぱすかる
何と言っても「続・二銭銅貨」。ちょうど乱歩の『心理試験』の復刻本の冒頭、当の「二銭銅貨」を読んでいる最中だったので、驚きも数倍。「やってくれましたなぁ」という作品。「ビスケット」はオーソドックスなミステリ。巫弓彦という名前に記憶があったのに、思い出せない。「付記」を読んで疑問氷解。『冬のオペラ』の探偵役でしたか! もう一度読みたい。「解釈」は、昨日読んだかんべ先生が乗り移ったのではないか、と思ってしまった珍作。笑えます。北村作品の奥行きの広さがうかがえます。
2019/12/08
ちょろこ
謎解きがもたらす余韻、の一冊。良かった。バラエティに富んだ謎解き七篇は第一話の「遠い唇」でいきなり珠玉の味わい。この小さな謎解き後の余韻、謎解きの爽快感がいきなりせつなさに姿を変えて心に残るこの余韻がたまらない。心のどこかがキュッとした、その瞬間をたしかに感じた。香りやもので呼び起こされるあの時。時を経て受け取るあの時のあの想い。こういう形で想いが大切な人の心に残る…これもまた幸せの一つなんじゃないかしら。そしてこの作品が自分の心にも忘れがたいものとして残る…うん、なんか今、すごく幸せ。
2020/01/30
岡部敬史/おかべたかし
じつに北村薫先生らしい優しい味わい。落ち着きます。素敵です。学生時代の日々が、ちょっと自分の中で蘇ってきました。あの早稲田の学生街、また行ってみようかな。
2021/01/28
アン
学生時代に先輩から届けられた染みが付いた葉書に綴られたアルファベットの謎「遠い唇」。夫が病床で書いた欠けた俳句の言葉と和菓子の関係「しりとり」。一緒に大切な時間を過ごしていても伝えられない想いがあること。そして、その想いを受け取ることができた時、かけがえのない日々の幸せを感じ胸がいっぱいになることも…。北村さんの紡ぐ文章は温かくも切なく人への信頼や愛おしさに満ち心にしみます。日本の名著を読み解く「解釈」、江戸川乱歩へのオマージュなど7篇。謎解き後は静かな余韻に包まれ豊潤なコーヒーの香りが漂ってくるよう。
2020/08/09
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