不時着する流星たち (角川文庫)
不時着する流星たち (角川文庫) / 感想・レビュー
mae.dat
短篇10話。インタビュー等で、今で言うなら「藤井聡太や大谷翔平(の様な分かり易いヒーローやヒロイン)は誰かが書くから、私が書く必要がない。陽の当たらない人を描くの」と仰っているの。本作はあまりメジャーではないリアルの人物や出来事からエピソードを抽出して物語を創造しているのね。牧野富太郎は本屋にコーナーがある程ですけど。で各話は洋子さんワールドの中で小さな秘め事を共有しているのが可愛らしいよ。『13人きょうだい』はうちの事情に似ていて。儂の父は13人兄弟の末っ子で、おじいちゃんの家は魔境の様だったんだ。
2023/08/26
ろくせい@やまもとかねよし
裏表紙の「美しく不遜な」の形容が相応しい10短編集。それぞれのモチーフも紹介。人類や人工物が自然や宇宙の摂理から見るとほんのひとかけらに過ぎないことを訴えている印象からか、不本意な安堵をもつ読後。綴る10の自然への畏怖。不安定な偶然でつながる奇跡的な連続。自然のものと通じている文字。同じ価値を共有する奇跡。感情より尊いもの。目に見えるものより尊いもの。空気と水のあいまいな境界。内なる感情を越える情緒。正しさの否定。愛しいものに対しても発する残忍さ。そして人間は時々の印象のみの意識でしか生きていないこと。
2020/12/15
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
船に乗り込んだ貴方はまだ風が冷たいね、と身を竦ませた。今年は雪が降らなくて夜には花の匂いが混じる。こんな日にひとりでいくのは辛いでしょう、と空に散らばる星たちがせめての道連れ。あの夜から私はずっと不時着してる。 崩れてしまった煉瓦の図書棟、使わなくなった図書カードに少し土草の匂い。せめて白鳥だったなら向こう岸に渡れたのに。ひとりきりの夜は星がいやに明るくて、私は死を想像する。
2020/02/23
エドワード
不時着する流星。何と詩的なタイトル。様々な人や物にインスパイアされた短編たち。時に予想を大きく外れる転結が待っている。まさに不時着だ。心は大人と互角の少女の内面を描く「誘拐の女王」は、これだけで一編の大作だ。散歩、手紙、測量、日常の風景が物語と化す快感、シュールリアリズムな作品もあり実に痛快だ。長じた息子と母の物語「肉詰めピーマンとマットレス」、終幕の哀愁がひとしおだ。ひたすら美しい「若草クラブ」、サー叔父さんの話が愛情満点、時に優しく、時につき離したような視線。この愉楽を求めて小川洋子さんを読み続ける。
2019/07/02
Vakira
物語は既にそこにある。洋子さんはいろんなケースで物語想像の可能性へ挑戦してきた。音楽から物語を想像したり、絵画から物語を想像したり。今回の挑戦は実在の人物より発想した物語。これはその10編の短編集。インスパイアされた人物は物語の最後のページに簡易紹介。モデルの人物と何が発想の源になったのか?紹介文にちりばめられた小物から想像するのも楽しい。知らない人なら知ってみたくなるし、自分が既知の超マイナーを思わせる人物であったりすると嬉しくなる。一寸変わった人物が登場すればほらほら、日常生活の冒険の始まり始まり。
2022/03/17
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