黄金列車
黄金列車 / 感想・レビュー
こーた
上司のミンゴヴィッツは言う。「人間には三種類ある。馬鹿と、悪党と、馬鹿な悪党だ」。馬鹿な悪党に乗っ取られたこの世界で、わたしたちにできることは何か。それは仕事をすることではないか。ユダヤ人の没収財産を守り、運ぶ。非道い仕事だ。でも、誰かがやらないといけない。ひとつひとつは小さくとも、みながていねいな仕事をしていれば、世のなかはきっと善くなる。各人が責任と矜持をもって行動する。行動が人間を形造る。小説とはそういうものだ。おとなの娯楽というべきであろう。馬鹿な悪党に仕える不幸な官僚こそ読むべき小説ではないか。
2020/03/03
紅はこべ
佐藤亜紀さんの読者は西洋史全般の知識を持っていることを要求されるな。文官だから、引き渡すには書類を整えて、責任者名も明記してと要求する。日本の現政権、前政権の官僚や政治家どもに爪の垢を煎じて飲ませたいね。ユダヤ人の没収財産を運んでいることについてはバログ以外は罪悪感とかなさそうだけど。クレックナーが従来抱いていたSSのイメージとだいぶ違っていた。
2020/10/06
ちゃちゃ
それは“黄金”列車なのだろうか。第二次世界大戦末期、ユダヤ人から没収した財宝を国有財産として積載した、ブタペシュト発の列車。史実に基づいたフィクションだが、作者の硬質な筆は説明をきらい、事実の描写に徹する。カットを多用した映画のように、壮絶な現在と無残に奪われた過去が交錯する。銀の燭台や切手帳の、心憎いまでの巧みな使い方。物語後半、封印されていた主人公バログの痛切な思いが像を結ぶ。苦難の末のラストで作者は一冊の切手帳に託して問うのだ、守り抜くべきかけがえの無いものとは“黄金”ではなかったのではないか、と。
2020/05/16
のぶ
第二次世界大戦に関して書かれた文学は多いが、この本もその一面を描いた作品だった。大戦の末期、ハンガリー大蔵省の役人のバログは、敵軍迫る首都から国有財産の退避を命じられ、政府がユダヤ人から没収した財産を積んだ「黄金列車」と呼ばれる列車に携わることになる。ストーリーの流れは没収資産を列車に乗せて運搬する話。その中にかつてバログが親交を結んだユダヤ人の友人たちの思い出が挿入される。暗く重い雰囲気が漂う中、バログの行なった行為が胸に迫ってくる。戦争文学の名作と呼んでもいい一冊だと思う。
2019/11/26
アン
第二次大戦末期、ユダヤ人からの没収財産をハンガリーの国有財産とみなし、積み込み運ばれた「黄金列車」。ユダヤ資産管理委員会の現場担当となったバログを中心に、混沌とした戦争の中、文官ならではの交渉や判断で財宝を守り抜いた役人たちの物語。バログが愛した妻やユダヤ系の親友の思い出が並行して綴られることで、バログという人物の内面が徐々に浮かび上がってきます。困惑を覚えながらも官吏としての任務を全うする矜持と、心の痛みを抱えたひとりの男としての人生が重なり、ほのかな灯りと哀愁を帯びたラストシーンが心に残ります。
2020/01/21
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