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来世の記憶

来世の記憶

来世の記憶

作家
藤野可織
出版社
KADOKAWA
発売日
2020-07-10
ISBN
9784041094136
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来世の記憶 / 感想・レビュー

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藤月はな(灯れ松明の火)

今回の藤野可織作品はジェンダー観や世間体、個性的でありながら同一を強いる風潮に対し、寓意が強めな作品が多い。「時間ある?」は「見下せる事ができる事が居心地が良いから」という理由で相手からの一方的な関係を良しとしていた語り手。でも彼女が相手から「親友と喧嘩したの」と相談されてショックを受ける場面に痛みと同時に黒い嗤いが込み上げてきました。見下す相手にも人生がある。それを見て見ぬ振りをして相手の唯一にもなれやしない。Hey,Siri.ならぬニコラス・ケイジな「鈴木さんの映画」は想像すだにシュールだ。

2020/09/14

もぐたん

淡い色合いをした抽象画のような、調子はずれの音を奏でるオルゴールのような、そこはかとない違和感を楽しむ短編集。くっきりした曖昧さ、現実的な非現実、昔あった未来、眠りの中の覚醒など、緻密に計算されたカオスと感覚的で不可解な世界が心地よくて虜になる。子供の頃の空想をそのまま文字にしたような無邪気さと、しんとした大人の的確さを兼ね備えた文体により、否応なく作品に引き込まれる。短編ならではの潔さとインパクトで頭の中が「読書の醍醐味」で一杯になり、想像の蔦にからめとられる。★★★☆☆

2021/02/14

ヘラジカ

突飛な発想と社会風刺によって編みあげられた多彩な短編集。奇想という言葉が浮かぶが、個々の作品はその短さを考えると驚くほどの物語性をも有している。一篇一篇が単なるアイディア勝負に堕していない。読者に解釈を促すような作品も、作者の中には明確な概念があることが分かるので、短編ながらも硬い芯が通っている印象だ。ページをめくるたび感心する読書だった。世界文学レベルというのも強ち誇張ではないだろう。ここ最近の日本文学には疎いので、新たな作家に出会うとそのレベルの高さに毎回驚かされる。

2020/07/12

いたろう

それぞれ、不思議というかシュールな世界観に彩られた短編20編。最後の「いつかたったひとつの最高のかばんで」だけが書き下ろしで、他はすべて、いろいろな雑誌等に掲載された作品だが、短編集として、不思議な統一感を持っている。前作「ピエタとトランジ」は、純文学作家が無理にエンタメを書こうとして、収拾がつかなくなってしまった感があったが、本作は、シュールさが適度に想像力を刺激する快作揃い。会社の健康管理室で、ニコラス・ケイジのホログラムのAIが、健康相談員をする「鈴木さんの映画」に、何故ニコラス・ケイジ?と大笑い。

2020/08/29

なる

真っ直ぐと歩いているつもりだったのになんだか酔わされているような気持ちになる。あれ、自分の足でしっかりと大地を踏みしめていたはず。なのに地面がいつのまにか無くなっている。そんな、幻惑にとらわれる不思議な感覚の小説がいくつも収録されている。こういう小説の書き方をする女性作家をあまり読んだことがなかったので少し意外だった。ごくありふれた日常を描いていますよ、という顔をしながら、筆の先は奇妙にねじ曲がっている。年代を経るにつれてエンタテインメント性と文学性のちょうどいい境目をたゆたうようになって心地いい。

2020/10/06

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