彼らは世界にはなればなれに立っている
彼らは世界にはなればなれに立っている / 感想・レビュー
ウッディ
他の土地から移住者を羽虫と蔑み、差別する社会、貧しい者からの搾取と民主主義を放棄したことの報いとして訪れる戦争への歩み、“始まりの町”という架空の世界でのいびつな社会構造は、日本が向かおうとしている暗黒の未来を暗示しているような薄気味悪さがあった。人々がただ笑って暮らせる、そんなささやかな幸せさえ、闘い続けなければ手に入らない。いつもの3人組が織りなすミステリーとは違う太田さんの新境地でしたが、この小説の不思議な世界観は現代社会の闇を不気味にクローズアップしていたような気がしました。
2021/02/21
MF
太田愛さんの現時点で最新の完結作。この作品を読んで最も強く思うのは、この本はこれ以前の作風に関心のない読者に向けて書かれたのだということ。おそらく我々の現状が改善せず、今以上に悪い方向へと進むようなことになるなら、著者はまた新たな作風で、より厳しい「その先」の物語を書くのではと思う。より多くの人に迫りくる危機を伝えるべく。 おそらく脚本が本業の著者にとって、小説は自分がそのとき書くべきもの、書かねばならぬものを書けるところにこそ意味があるのだろう。だから既存の読者のため続きを書く余裕はないのだとも思う。
2021/09/03
みっちゃん
この「始まりの町」が辿った運命。寓話のような物語を通して作者が問いかけてくるものから、目を逸らしてはいけない、んだと思う。気がつかないふり、聞こえないふり、見えないふり…その先にあるのは破滅と絶望だ。「面白かった!」と手放しで言うことはできないけれど、真摯に紡がれた物語だ。
2021/03/29
ちょろこ
2021年初読みの一冊。舞台は架空の町。「羽虫」という言葉にいきなり胸を抉られる。排除、差別、世界中の至る国での過去、現在進行形を感じそれぞれの立場でのやるせない感情が胸に突き刺さる。登場人物誰もの口からほとばしる言葉、全力で言葉にのせて伝えてくる思いはその都度足を止めたくなるほど。終盤は圧巻。太田さんの思い、メッセージ、言葉のシャワーが心に降り注ぐよう。遠い昔にあったこと、近い未来にあるかもしれないこと。それが全て次世代にどう繋がっていくのか。これはどこか遠い架空の町というどこか近い現実の世界の物語。
2021/01/03
モルク
始まりの町の初等科に通う少年トゥーレ。ドレスの仕立てをする母は、羽虫と呼ばれる存在。誇り高い町の住民は、他所から来た人を羽虫と蔑み、差別していた。そしてある日母が姿を消す…。架空の町であり、権力に従順な子どもに育てる教育、徴兵もあり、思考を統制し反抗を悪視し、住民のその鬱憤は羽虫への差別行為へと向かう。これは、現代へ、我々への警告か。ファンタジーっぽくなっており今までの作風とはずいぶん違うように思えたが、その根底に流れているのは、やっぱり太田愛のものであった。
2021/08/21
感想・レビューをもっと見る