写楽 (角川文庫)
写楽 (角川文庫) / 感想・レビュー
ちょろこ
せつなさも感じる一冊。謎に包まれた絵師、東洲斎写楽。ほぼ知識がない自分には自然な姿で現れ、どこかせつなさを残す感じが良かった。しかもいきなり絵師として登場するわけではない。苦節を味わい、名もなき姿で名プロデューサー蔦重に出会うまでをじっくり時間を使い、輪郭がはっきりとしたのも束の間…というストーリー展開も良い。蔦屋起死回生の期待を背負い、やっと与えられた名前。なのにいきなりは名乗れない侘しさ。蔦重の戦略と言ったらそれまでだけれど、そこに一番せつない写楽を感じた。物語の数だけ、写楽の人生は生まれるんだな。
2024/04/29
のり
わずか10ヶ月の短い期間に絵師「東洲斎写楽」は存在した。謎に包まれた写楽を皆川さんは新たな命を吹き込んだ。「蔦屋重三郎」の目にとまり斬新さを買われる。鳶重は他にも「歌麿・十辺舎一九・北斎」達を見出した眼力には恐れ入る。
2020/10/25
mii22.
「華やかな幻想空間の板一枚の下に、暗黒の奈落がある」これはわずか十ヶ月のあいだ、写楽として役者絵を描き、その後忽然と消えてしまった謎多き絵師の物語であり、その時代の江戸における歌舞伎、芝居、浮世絵、吉原の世界で生きた人たちの物語でもある。これまで読んできた皆川作品に共通する華やかな世界の裏側を描いたもののなかでは登場人物が多く薄味に感じたのは皆川さん自身が映画の脚本として書かれたものを元に小説にされたからなのかもしれない。それでもラストはやはり皆川さんだと唸らせる粋で妖艶で余韻に浸れる幕引きで良かった。
2020/09/27
鍵ちゃん
寛政5年、江戸。人気絵師・utamaroに去られ、血眼で新しい才能を探す蔦屋重三郎は、ふと目にした絵に驚愕する。斬新な魅力と力強さに溢れた役者絵、描いた者は元稲荷町役者のとんぼと名乗る男だった。蔦屋が考えた雅号は、江戸の男の心意気を表わす東州斎写楽。歌麿の最大のライバルと言われ、型破りな名作を次々世に送り出し、忽然と姿を消した写楽。その魂を削る凄まじい生き様と業を描きあげた物語。倹約令が江戸を支配されていたため、そのエネルギーが絵師を通じて物語っていたな。ただ、とんぼ(写楽)の扱いより蔦屋の方が目立つ。
2024/03/12
ぐうぐう
「〈東洲斎写楽〉。おまえの名だ」蔦屋重三郎は言う。「おまえが東洲斎写楽だということは、わたしが許すまで、決して、世間に明かしてはなりませんよ」皆川博子の『写楽』は、写楽の正体に焦点を当てた、言わばミステリ仕立てにしていないのがいい。重三郎が写楽の正体を隠すのには、隠すことで逆に評判が立つというプロデューサー的目論見があってのことだが、それは歌舞伎の正本が〈世界〉と〈趣向〉の混ぜ合わせから成っていることと関わりがありそうだ。(つづく)
2020/12/04
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