ヴィヨンの妻 (角川文庫)
ヴィヨンの妻 (角川文庫) / 感想・レビュー
Shoji
終戦直後の荒んだ世の中、這いつくばって生活していた時代である。物語を通して感じられる、酒と女と雑踏の臭い、しかもそれはすえた臭いだ。二つのことが印象に残った。一つは、動物的本能のような女のしたたかさ。もう一つは、「人間は死によって完成させられる」という文章である。生きるのに精いっぱいだった時代に、太宰は生を書きたかったのか死を書きたかったのか、まだ私の中でモヤモヤしている。
2017/11/01
美羽と花雲のハナシ
太宰の晩年の短編集。太宰の描く女性は強くて非常に魅力的である。「ヴィヨンの妻」は一番好きな太宰作品。さっちゃんの献身的な愛とダメ男大谷の対比が素晴らしい。「パンドラの匣」は従来の暗くて重い太宰とは別人のような作風。結核診療所で過ごす日々が面白おかしく描かれている。物語全体を覆すラストも必見。個性豊かな登場人物による会話が楽しくて、何回も噴き出した。これは「グッド・バイ」も非常に類似しており、軽快な文体と楽しい会話と続きが気になる展開。そう、その展開が気になる、気になる。田島とキヌ子はその後どうなったの!?
2012/10/21
東京湾
「死と隣合わせに生活している人には、生死の問題よりも、一輪の花の微笑が身に沁みる」太宰治最晩年の傑作五篇。晩年の太宰治といえば「人間失格」の印象が強いが、破滅の美とは対極の、戦後に射す新時代の兆しに手を翳して生きる人間が、「パンドラの匣」をはじめ描かれている。病に臥せりながらも、療養所の暮らしと時代の展望を溌剌と語る青年の姿は、読んでいて胸がすく爽快さがあった。「トカトントン」は最後の返信がうまく落としている。「ヴィヨンの妻」は相変わらずの巧みな女性描写。「眉山」は哀愁が漂う。「グッド・バイ」は愉快だ。
2019/08/30
爽
前から気になっていた1冊。「ヴィヨンの妻」以外は初読み。やっぱりどの作品も死が近い。死を中心に進んでいるのが太宰治の人生を表しているよう。「パンドラの匣」はある意味、学校のような場所での学校のような生活。人間は死によって完成するというけれど、恋をしたり運動をしたり、そんなことでも希望が生まれてくる。死による未完はこんなにも切ないんだなあ。年譜がさらに拍車をかける。小川洋子さんの解説は、太宰治自身を深く知る手がかりになった。
2014/03/21
ω
おや、持っている本のタイトルはグッド・バイですが何や? グッド・バイは未完であり評価が難しい。今のところ(?)ワクワク感がありますが、続きは伊坂先生にお任せで良かったかもしれませんね( ^ω^) 一番好きなのは「眉山」。太宰は女性を書くのがとても巧みだと思います。話し方、仕草。眉山も竹さんも、側にいたら好きになりそうだ。
2018/09/22
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