化け者心中
化け者心中 / 感想・レビュー
青乃108号
読み終えて、心に満ちて来るのは人間に対する情愛。このところ俺は、ほとほと疲れてしまってて、人間なんて、ららーらーららら、らーらー。と吉田拓郎の歌を知らず口ずさんでたりして妻に気持ち悪がられる事が多々あり。すっかり嫌になってやさぐれた気分でいたところが、この本を読んで、読み終えて、心に満ちて来るのは人間に対する情愛。何だかとても暖かい。
2023/09/11
みっちゃん
殺人事件の舞台は芝居小屋。犯人は何と鬼。役者を喰らって成りすます。探偵役は不幸な事件に因り引退を余儀なくされた花形女形と「彼女」を背負い、どこへでも馳せ参じる木訥な青年。鬼は人でなし、残忍なもの。立ち居振舞いでそれとわかるはず。ところが。調べれば調べる程明らかになるのは役者達の嫉妬、悪意、画策、秘密。芸を極める為なら何でもする。目の前のこの者は人か鬼か男か女か。その境界がどんどん曖昧になる。終盤明かされる鬼の正体と「動機」は何とも切なく悲しい。読み終わりわかるタイトルの秀逸さよ。なあ、そうだろ、お前さん。
2021/02/12
nobby
「これは筋書きじゃねえ! 」咄嗟の叫びと重なる複雑な想い…江戸の歌舞伎を舞台に始まる展開にまず苦戦…それでも「役者六人の中に鬼がいる」岡引きミステリ変貌にはワクワク♬ただ、作品の真意はそこにあらず再び困惑…自らの立場や番付あるいは評判を上げるため、それぞれに憑依する鬼の姿…そもそも人間なのか鬼なのか、あるいは男として女として生きる意義は何なのか…間違いなく堅い概念しか持ち得ていない自分は茫然とするのみ、嘘と誠その区別すら分からない…「まるで化け物だ!」芝居を形容する台詞を目にしてタイトルの上手さには納得。
2021/05/16
ちょろこ
鬼暴きミステリの一冊。役者六人の中に鬼がいる!耳に心地良い言葉と共に鬼暴きの幕開けだ。時々舞うかのようなリズム感のある言葉はもちろん、心の奥にふぅわりと響く言葉を拾い味わいながら鬼へと近づく時間。次々と暴かれる役者達の凄まじい心意気、本性には圧倒されるほど。そしてちらりと見える、誰もが心に住まわせる鬼の姿に時折、己を見つけて心はちくり。人、鬼、男、女その境がゆうらりと混じり合う描き方も美と哀しみ感じる味わい深さ。魚之助、藤九郎、鬼、愛、心中、せつなさ舞う幕終い。あぁ、なんか最高の時間やったわ。
2020/12/05
ひさか
2020年第11回野性時代新人賞受賞作を改稿して野性時代2020年8月号に掲載。加筆修正し、2020年10月角川書店から刊行。作者デビュー作。おそろしくテンポの良い語り口が楽しく、ぐんぐんと惹き込まれましたが、すぐに慣れてしまいました。役者が芸にかける執念の話と殺人という短絡的な手段とのギャップに違和感を覚えました。鬼登場のくだりでの唐突さにも馴染めません。面白いところがたくさんありますが、バランスの悪さ的なところが気になりました。次作が楽しみです。
2021/01/26
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