喜べ、幸いなる魂よ
喜べ、幸いなる魂よ / 感想・レビュー
パトラッシュ
ニコ動の直木賞発表中継で豊崎由美と杉江松恋が「候補作にしなかった文春に抗議デモをしよう」と呼びかけていた。宗教と因襲と圧制下にある18世紀後期ベルギーの商人階層を舞台に、恋愛と親子関係と知識人のあり方と女性差別などを盛り込んだドラマが展開する。英雄も王侯貴族も出ず、最後にフランス革命の影響が及ぶまで大事件も起こらないが、生まれた時代と土地で懸命に生きねばならない庶民の息遣いが聞こえてくる。現代にも通じる問題性と社会性に満ちた重厚な歴史小説であり、確かに直木賞候補に選ばれなかったのは大きな取りこぼしだろう。
2022/08/09
モルク
18世紀のベルギーフランドル地方で亜麻を扱う商家の双子姉ヤネケと弟テオ。そこに1才年上の養子ヤンがやって来る。ヤネケはヤンの子を産み、生涯独身の女だけが暮らす「ベギン会」に移る。天才でありエゴイストのヤネケはヤンの名で経済学などの本を出す。当時の女は大学に行くこともましてや論文を発表することはできなかった。男にも、物にも、情も何もわかないヤネケ、次々と妻をめとり子をなしながらもずっとヤネケを思い続けるヤン。そしてフランス革命がこの地にもしのびより彼らを巻き込んでいく。その美しく流れる文章に引き込まれる。
2022/05/03
アン
18世紀ベルギー、フランドル地方。亜麻糸を商う家の養子となるヤンとその家の娘ヤネケとの絆の物語。ヤネケはヤンとの子レオを出産するも、女性が単身で自立的生活を営む共同体べギン会へ。対照的に家庭を築きたいヤンはレオを引き取り、俗世間の煩わしさの中で哀しみや苦難を乗り越え…。聡明で知的探究心の赴くまま研究に専念するヤネケの姿勢。「人でなし」と言われる彼女を想い続けるヤンの葛藤と人間味。革命の波が押し寄せる中、2人は怯まず自分達らしく未来へと駆け抜けるのだろう。寄り添う笑顔は麗かで心はどこまでも離れることなく。
2022/05/05
のぶ
佐藤さんの新刊はすべてヨーロッパを舞台にした物語。18世紀のベルギー、フランドル地方の小都市シント・ヨリス。物語の中心になるのはファン・デール家の亜麻糸商のヤネケとヤン。ヤネケはヤンの子を出産すると、生涯単身を選んだ半聖半俗の女たちが住まう「ベギン会」に移り住む。このベギン会の存在がこの話の軸になっている。ヤンはヤネケと家庭を築くことを願い続けるが、自立して暮らす彼女には手が届かない。やがてフランス革命の余波が及んでくる。40年にわたる話だがヤンケの生き方が良く描かれていて読み応えがあった。
2022/03/13
buchipanda3
18世紀のフランドル地方、同じ時代を長い年月、共に生きた幼馴染みのヤネケとヤンの物語。著者はいつもレアな時代と場所の人々の生活ぶりを洗練された文章で詳らかに活写する。その見知らぬ世界の感性に大いに刺激を受け、最後まで興味深く読めた。テーマの一つは女性の地位。社会での機会が制限される中、天才的なヤネケはかなりの合理的思考で軽妙に人生を闊歩する。一方のヤンは当時の普通とされた幸せを願う。二人は何とも奇妙な関係を続け、たとえ革命のうねりが届いても自分らしさを保つ。それは自己の人生を踊り喜び歩んだ姿に見えた。
2022/03/27
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