ミノタウロス (角川文庫)
ミノタウロス (角川文庫) / 感想・レビュー
小夜風
【所蔵】圧倒的な暴力…20世紀初頭のウクライナ。ロシア革命とかロシア内戦とか第一次大戦とか赤軍とか白軍とか何もよく判らない人たちが容赦なく巻き込まれて略奪し殺戮する。ほんの少しの感傷も優しさも何もなくて、義理人情もなくて、ただただ暴力だけ。その世界を美しいと笑い何故今まで起こらずに来たのだろうと思う主人公に戦慄した。ヴァシリはずっと未成年みたいだったけど最初からどのくらいの時間が流れたのかよく判らなくて、最後まで未成年だったのかなと思った。あまりに濃厚過ぎて、1〜2年の話かもしれないけど何十年にも思えた。
2024/05/12
chocoうさぎ
この物語は一体どこへ行き着くのか、と思いながら読んだ。20世紀前半のウクライナの混乱の時代を背景に、恵まれた地主の息子から一転、全てを失ってその日を獣の様に生きるヴァシリの姿を通して、何が人間を人間たらしめているのか、その境は何なのかを描く。戦争や革命によって時代が目まぐるしく変わる事で秩序がなくなり、地獄の様な日常が口を開ける。安住なんて来るのか分からない時代を疾走するヴァシリと仲間たちの冒険譚でもある。人間の多面性も窺える。淡々と結構すごい行為が描かれているが読ませる。面白く読んだ。凄い。
2024/04/19
しょうたろ
自分とは全く異なる考えを持つ主人公の視点を追うことで、自分が受け入れ難い人生を生々しく体験したような衝撃的な読後感を味わった。 主人公は自然に、人間の倫理(ここも主人公と自分にズレあり)を超えた行動に手を染めていく。物語を通じて、「清濁を併せ呑む」という言葉の濁の部分を存分に体感した。この辺りの気持ち悪さが今回の収穫であり、想像の幅が引き伸ばされたと思える。 特に印象に残ったのは、「揺るぎない支配は神聖に似ている」という一節や、「字さえ読めなければ立派な人間になっていただろう」という皮肉めいた主張。
2024/11/17
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)
あの天然の役者ハムレットが義侠心や思いやりを失って徹頭徹尾、目先と自分の快感だけしか愉悦の源に出来なかったら主人公みたいになるのではないか?そして彼をそれらに追い詰める生活は今わの際のロマノフ朝とソ連の生誕には無かった、幕引きには舞台の麦畑は広すぎ、緞帳の雪は重すぎた。あの暴力的な殺人鬼の主人公、更に言うと人間の条件をナイーブに追い続けるうちに「無敵の人」と呼ばれるようになった我(欲)の強い青年、壮年と、神なき世界で生の意義を確立するハムレットの紙一重さに、終盤の甘い独白に戸惑いながらも慄然とした。
2024/11/17
田中田
美しい小説。 ある程度20世紀初頭のロシア情勢に明るいほうが楽しめると思う。
2023/03/13
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