リラと戦禍の風 (角川文庫)
リラと戦禍の風 (角川文庫) / 感想・レビュー
Shun
上田早夕里作品は3作目になり、本作の構想は史実を元にしたスペキュレイティブ・フィクションの「破滅の王」に近い内容です。こちらは第一次世界大戦下の欧州が舞台と先の作品と時代は近く、また特筆すべきはファンタジーの要素が取り入れられた点で、不死の魔物という人類の所業を俯瞰できる立場となった主人公らの視点で読者はこの戦争の成り行きを観ていくことになる。そしてこの魔物の能力の由来に有名な串刺し公ヴラドの逸話の引用と、常に周辺大国との対外折衝に苦心し遂に滅びた小国としての立場故の諜報活動という発想が物語を引き立てる。
2022/03/29
小夜風
【所蔵】ファンタジーと戦争がひとつの作品として相容れるのか、読む前はかなり懐疑的だったのだけど、とても面白く読んだ。少し前に読んだ皆川博子さんの「U」と設定が似ていたことと、直前に同時代が舞台の映画を観たのもあり、戦場の悲惨で残酷な場面もリアルに目に浮かんで辛かった。人間は本当に太古の昔から同じことばかり繰り返してきているのだなと…それを伝える為のファンタジー設定なのかなと思った。リラの「私を怪物に変えたのは戦争よ。戦禍の風は、子供や大人の区別なく、あらゆる人間を怪物に変える。」という言葉が、胸に迫った。
2024/11/05
なつみかん
この作者で何冊か読んだ中で一番好みに合ったんだ。この自分自身知らずにいた第一次大戦当時の欧州事情、よくここまで調べられたものだと感心します。あとがきに、そこに興味を持たれたら是非ご自分でも調べて、なんて書かれてあったけれど・・・到底手が出せないかと思う。(^_^;)
2022/05/19
鳩羽
第一次世界大戦に従軍していたイェルクは、瀕死状態のところを伯爵と名乗る魔物に救われ、少女リラの護衛となるよう依頼される。それ以来、変わらず兵士として戦線に留まる実態としてのイェルクと、虚体として魔物たちと暮らすイェルクの奇妙な二重視点の未来が続いていく。なんとかして戦争を終わらせられないか、イェルクは四苦八苦するが…。壮大なスケールで描かれる戦争と、戦争をせずにはいられない人間の業の話。虚体という存在が、戦争を一個人に概観させる手法は面白いけれど、ドラマとしては散漫な感じもあった。個々の挿話はよかった。
2024/05/19
taro
作者およびあとがきの一文に共感を得て購入。600Pのボリュームに若干しり込みしたものの、読み始めれば胃もたれすることもなくペロリ。歴史もファンタジーも、ここではないどこかの話であるという点で相性がよいようです。 書物が世の中の希望でありますように。
2022/04/17
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