にせドンファン (角川文庫 緑 250-23)
にせドンファン (角川文庫 緑 250-23) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
吉行淳之介のエンタティメント。面白い。物語作家としても確かな腕を持っていたことが分かる。大学の助教授が主人公。裏の顔があって、夜は華麗な女性遍歴を楽しんでいる。ところがある女性との別れ話がこじれて―――。純文学では抑制されているユーモアが前に出ているのが好ましい。クスリと笑える部分もあった。軽快な文章も魅力。時々純文学風の文体が顔を出すのはご愛嬌か。ヒッチコック風の仕掛けがあって、それが独特のサスペンスを生み出していた。主人公は女性に翻弄されるが、この小説は吉行淳之介一流の女性賛歌ではないかと思った。
2015/01/20
ちぇけら
「おれは、一体何者なんだ」と呟いた声が夜空に吸い込まれていく。困難を越えて女を抱くことがなによりも幸せで、自信になる。女に合わせて変装をして、コロコロと自分を変える。女を手に入れ、頃合いをみて手放す。すべては彼の手中にあると思っていた。それなのに、いつの間にか女に追われ、どんどんと自分を失っていく。自分を覆ってた装いが、音を立てて崩れていく。投げ出された夜。
2019/02/05
シルク
どういう顛末になるかと思ったら、なるほど、これは本人にとっては予期せぬことでさぞびっくりしただろう。途中、話がなかなか進まず飽きてきてしまったので、もう少し短くシャープにまとめたほうがよかったような気も。
2021/05/09
桜もち 太郎
読み物としては面白かった。男としては主人公の花岡さんがうらやましい限り!
2013/02/03
かがみん
吉行には珍しく男性側が転落する話。こう書くといかにも吉行が他作で女性を貶めているようだが、決してそうではない。精神的な余裕さが男性に残ったまま終幕することが吉行作品には比較的多い中で、本作は11章における展開によって「どうでいい」と男が割り切れない程に追い詰められ、その様が他作においての女性と対置されているように思えるのだ。これ以上は割愛せざるをえないが、吉行作品では異彩を放つものであるのは間違いない。
2012/08/04
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