忘れ得ぬ翼 (角川文庫 し 4-15)
忘れ得ぬ翼 (角川文庫 し 4-15) / 感想・レビュー
まつうら
太平洋戦争末期を戦い抜き、生き残った搭乗員たちが紡ぐ物語。描かれているのは、大空への憧れや、蒼穹の彼方にある自由。しかしその一方で、いつ撃墜されるかわからない恐怖と諦観。百中百死の特攻と、百中九十九死の間のにある途方もない距離感。敗戦によって引き裂かれた矜持。どのように生き、どのように死んでいくべきか。彼らの複雑な感情が波のように押し寄せる。。。いちばん目を惹いたのは小久保の一言だ。戦時中を懐かしみ、ときおり集まって語り明かす戦友たちを「生きた化石」と言い放った。戦争は過去。現在を前向きに生きていくのだ。
2022/08/06
ブラックジャケット
大戦末期、圧倒的な科学技術と産業力で壊滅的打撃を受けた旧日本軍の航空戦力。著者は丹念な取材で、陸海軍の軍用機と飛行機乗りたちの物語を綴った。九七式戦闘機搭乗員と薩摩藩が作った堤防が守る揖斐・長良川の中州の神社との奇縁。艦上爆撃機彗星、一式戦闘機隼。そして夜間低空爆撃のB29に忍びよる夜間戦闘機月光の孤独な戦い。一式陸上攻撃機は米軍からワン・ショット・ライターと揶揄され、雲間に逃げるしかない搭乗員。しかも戦後四半世紀の飛行機乗りのその後も描かれる。生死は紙一重で死なない。散華した戦友への鎮魂歌となった。
2024/06/04
シュラフ
戦争中は軍の飛行機のパイロットとして従軍して、戦場で九死に一生を得て、そしてそれぞれの戦後を生きる男たちの物語。各短編にそれぞれの陸海軍の名機が登場する。戦争末期という日本の敗色が濃くなった状況下で、みなそれぞれ死を覚悟している。各作品で感じられるのは、戦争が終わって生き残ったという生の歓びではなく、戦争で死に損なってしまったという喪失感のようなもの・・・月並みな言葉とはなってしまうが、”あの戦争で死んだ人たちがいて今の日本がある”、そんな歴史が戦後世代の我々の胸を深くえぐってくるようである。
2014/05/06
馨
飛行機乗りの若者が主人公の戦争小説の短編集です。 陸軍機・海軍機ともとても詳しくお調べになっており勉強になります。『脱出』がなんか切なくて好きです。戦中・戦後を生きた主人公がどんな想いで終戦を迎え平和な時代・日本を見て過ごしているか。。
2014/04/21
G❗️襄
「九七戦」「彗星」「二式大艇」「隼」「月光」「一式陸攻」「百式司偵」「飛龍」旧日本軍で活躍した軍用機。爆弾を抱え片道燃料で飛び立っていった。生きて終戦を迎えた兵士達から命の最前線が語られる。大陸から太平洋へと戦場が拡大され、土俵際での戦いは、命の消耗を強いられ、生還の希望は絶たされる。それでも、神に護られた者、篩に残された者、引き上げられた者、引き止められた者があった。何が生死を分けたのか、神の選択があったとしか思えない。空に憧れた彼らに、せめて、蒼空に舞う喜びに浸るひと時があったものと信じたい。
2023/04/28
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